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テーマは”僕はこんな落語を聞いてきた”〜「月例三三」2月公演

2003ー2004年頃だったと思う。ロンドン赴任を終え、東京での生活を再開し、寄席を訪れた。そこに出演した二つ目の落語家がやけに上手くて感心した。それが、柳家三三である。その後、2004年7月19日、大銀座落語祭の一企画「圓朝寄席」で聴いた”鰍沢”で、感心は驚きに変わった。

2006年には真打に昇進し、紀尾井町ホールでの真打昇進披露の特別公演の演目は”らくだ”だった。32歳の柳家小三治の弟子は、将来を大いに期待される存在として私の頭に刻み込まれた。

その後、順調にキャリアを積み、今日に至っているが、最近は彼の高座を体験していない。調べてみると、最後は2018年6月の「落語研究会」、演目は”夏どろ”だった。

ふと、彼が毎月開催している独演会「月例三三」の情報がメールで入っていた。180回以上を数えるこの回に、私は行ったことがない。2月17日、イイノホールでの第189回に向かうことにした。

今年のテーマは、落語家生活30年も記念し、”僕はこんな落語を聞いてきた”ということで、1月は八代目春風亭柳枝、そして今回は三代目三遊亭金馬(以下、金馬)、 晩年は金翁を名乗り昨年他界した四代目金馬の師匠である。

金馬は、聞き取りやすくはっきりとした口跡で、分かりやすい落語、中でも”居酒屋”で人気を博した。その音源を聴くと、明るく楽しい、誰もが楽しめる落語である。それ故か、いわゆる好事家や評論家からは軽んじられた。しかし、同業の噺家の間では高い評価を得ていたという。そんなエピソードを、三三は披露していた。金馬は昭和39年に他界、もちろん三三の生まれる前の出来事であり、師匠や先輩落語家、評論家の矢野誠一らから聞き語りである。

開口一番、林家彦三 ”猫の皿”に続いて、三三は金馬の得意ネタ ”藪入り”を演じた。”居酒屋”と並んで、私の好きな金馬ネタである。誰もが、ホロっとする話だが、最後は落語らしく閉じられる。

“薮入り“と言っても、若い人には通じないだろう。奉公人が、正月とお盆に休暇をもらい実家に帰ることである。私の実家は自営業で、家はそこで働く若い社員の寮を兼ねていた。奉公人ではないが、彼らが盆正月の休暇で帰省する時、母は“薮入り“と言っていた。

落語の“薮入り“は、まさしく奉公に出た少年が、一日だけ実家に帰る話である。息子の帰宅を心待ちにする両親の様子を落語の前半は描く。あれもこれも食べさせてやりたい、ここにもあそこにも連れて行ってやりたい。そうして、3年の修行を終えて帰省した息子の成長を愛でる。親の愛情は、時代を超えて共感を呼ぶものだろう。

中入り後は、金馬とは関係ない“探偵うどん“。新作かと思う演目名だが、明治期が舞台と思われる古典である。古今亭志ん生の音源で聴いたことがあるが、ライブでは初めてである。

最後は金馬の得意ネタ、“花見の仇討“。ちょっと季節は早いが、上野の山の花見、趣向で仇討ち狂言を演じようという連中。さて、首尾よく行くのだろうか。。。。

柳家三三の落語は、安心して聴いてられる安定感がある。真打になって、もうすぐ17年、来年50歳。脇目も振らず高座を重ねてきた小三治の愛弟子、師匠の不在を埋める、油の乗った口演だった。

三三はは、来場客の為に特典映像を用意し視聴コードを配布している。その中で、金馬の落語について、<ちゃんと喋って、どの人物も“らしく“喋って、しかも面白い>ことが大事であることを感じたと話し、その落語を“ザ・スタンダード“と称している。三三の落語は、今の“ザ・スタンダード“ではないかとも思う。

来月は、誰をトリビュートするのだろう



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