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新たなる世界の始まり「桂二葉チャレンジ‼︎ 第2シリーズ」(その2)〜ネタおろし「天神山」

(承前)

「桂二葉チャレンジ‼︎ 第2シリーズ」のテーマは“ネタおろし“。この日の演目は「天神山」である。

桂枝雀の音源、桂雀々のライブと聴いているが、とても難しいネタではないかと思う。話があちこちに飛び回るのだ。

最初に桂二葉の口演の感想だが、とてもよく演じていたと思う。ゲストの三遊亭兼好が、終演後のトークなどで、「“ネタおろし“の時は、みっちり稽古して臨むので、一番出来が良かったりする」。その通り、非常に丁寧に演じられていた。もちろん、途中懸命に語るような場面もあり、まだまだ登場人物が体の中に入っていないと感じたが、「天神山」で最も重要な終盤を、ちょっと感動的に仕上げてくれた。

それでは“ネタばらし“と共に、「天神山」という不思議な演目について書く。

主役は二人と言って良いのだろう。前半に登場するのは“ヘンチキの源助“。変わり者で有名な男で、頭髪は半分剃って半分は長い、着物は場所によって一重、合わせ、綿入れと混在、足袋は左右の色が違う。考えようによっては、オシャレかもしれない。この話も、こうしたパッチワークのようなものだ。

変わり者の源助は、周囲が花見に行く季節に、“墓見“に向かう。おまるに弁当、しびんに酒を入れて、石塔や塔婆を眺めながら一杯やろうという趣向である。訪れたのは、大阪ミナミの一心寺、俗名小糸と書かれた墓と会話しながら酒を飲む。そろそろ帰ろうとしたが、こんもりと盛り上がった地面を発見。掘り返すとシャリコウベ!源助はこれを持ち帰ると、夜中に小糸の幽霊が訪ねて来て、二人は夫婦になる。

翌朝、もう一人の主人公、隣人の“胴乱の安兵衛“が訪ねてきて、昨夜の女は誰だと問い詰める。次第を聞いた安兵衛は、嫁探し〜シャリコウベを見つけようと一心寺へと出かける。と書くと、落語の好きな方は、「野ざらし」(上方では「骨釣り」)のパターンかと想像するが、そうはならない。

一心寺で骨を発見できなかった安兵衛は、寺の近所「天神山」にある、“安居の天神さん“を参詣し、自分にも嫁が来るよう祈願し、将来を妄想する。ふと我に返った安兵衛、天神山で狐狩りをする男を発見。交渉の挙句、捕まった狐を解放してやる。この狐、恩返しにと人間の女性に化け、安兵衛のもとに嫁入り、二人は子供をもうける。

しかし、周囲に正体がバレてしまい、この狐は安兵衛の家から立ち去ってしまう。障子に残されたのは、父子にあてたメッセージ。
「恋しくば 訪ね来てみよ南なる 天神山の森の中まで」

歌舞伎好きの方ならば、「芦屋道満大内鑑」あるいは“葛の葉(の子わかれ)“のパロディであることが分かるだろう。桂米朝は「上方落語ノート第一集」で、<上方落語と歌舞伎の関係を云々する場合、これは重要なネタである>と書いている。

問題は今やパロディの元ネタを知らない観客がほとんどの中、この荒唐な話をいかに現代の聴き手に訴求するかである。小佐田定雄は「枝雀らくごの舞台裏」で、<枝雀落語には詩情がある。その「詩情」がもっともよく表れていたのが『天神山』>と書いている。二葉の「天神山」のラストには“詩情“が感じられた。それをもって、この初演は成功だったと思うのである。

二葉は「桂米朝を疑う」ということをテーマの一つとした。まさしく「天神山」を歌舞伎のパロディという呪縛から脱却させ、独立した「詩情」あふれる一編とすること。それが、二葉に課せられた課題かもしれない。女狐が子供と別れる悲しさ、女性でなければできない工夫、そして感動といった可能性が秘められているように思う。

トークで、兼好が「キャリア10年そこそこの頃は、毎月ネタおろしし、その殆どは捨てた」と話していた。桂二葉もその道を辿るだろうが、この「天神山」は彼女ならではのネタになり得るようにも感じる


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