見出し画像

小林信彦「わが洋画・邦画ベスト100」(その2)〜50本の日本映画

文藝春秋八月号、小林信彦「わが洋画・邦画ベスト100」、本日は日本映画編である。小林さんは、<邦画のベスト50をえらぶのは、時間がかかった>と書かれているが、こちらも”自由”なセレクションである。

戦前(1945年以前)の作品が14本を占める。小林さんは1932年生まれなので、1943年の「姿三四郎」(黒澤明監督)あたりから、リアルタイムとなるのだろうか。マキノ正博監督〜「待って居た男」(1942)、エノケン〜「エノケンの頑張り戦術」(1939)を落とさないのは小林信彦ならではか。山下達郎が絶賛する山中貞雄の「人情紙風船」(1937)を小林さんも挙げている。録画して未見、これはまずい。

そして、戦後昭和21年ー30年から16本。木下恵介、小津安二郎、黒澤明など巨匠監督の作品が並ぶ。中では、木下恵介監督、原節子主演の「お嬢さん乾杯!」(1949)について、<五十本の中で、この名作だけは見て下さい>と小林さんは書く。観ていません、早速取りかかります。

日本映画の流れ的なコメントが、軽ーく入っているのが面白い。<日活映画の時代になると、五十年代、六十年代と日本映画変わってくる>とし、昭和31年ー40年は7本。中平康監督(<トリュフォーが中平康の演出を絶賛した>とある)、石原裕次郎主演の「狂った果実」(1956)から始まり、川島雄三監督については、「幕末太陽傳」は<名作といえる>と文中で言及するにとどめ、「洲崎パラダイス 赤信号」(1956)をベスト50に入れている。

黒澤の「隠し砦の三悪人」(1958)については、<黒澤明にはもっと、こういう時代劇を取って欲しかった>、<双葉さん(注:双葉十三郎)のいう、《一直線娯楽映画》>。私は、何度か観ているが、ロンドンのNational Film Theatre/BFIで黒澤特集があり、そこで観たことを覚えている。「スターウォーズ」のCRPOとR2D2の原型はこの映画である。

日活に続いて、日本映画の転機として、<一九五九年、大島渚が出てくる>。彼の出世作「愛と希望の街」(1959) は、昭和31ー40年だが、「愛のコリーダ」(1976)が入る昭和41年ー63年は7本。

親交のあった渥美清作品は<「天皇陛下シリーズ」>ではなく、「男はつらいよ 寅次郎相合い傘」(1975)が入る。リリー(浅丘ルリ子)が再び登場する作品である。この項で、「男はつらいよ」の<若尾文子の出た回が好きで>としながら、<そういえば(中略)若尾文子の映画がないぞ>、<二本は必要だった>とし、<自分に向かって言ってみる。すみません>と書いているのが微笑ましい。

そして、平成以降は、崔洋一、是枝裕和、濱口竜介らを選んで6本。

監督別に見ると、小林さんは「黒澤明という時代」という本も上梓しているだけあり、黒澤作品が5本、ついで成瀬巳喜男が4本となっている。リストを見た瞬間、私は全然観られてないと思ったが、50本中14本。黒澤の5本は全て観ているので、それを除くと、いかに日本映画をカバーできていないかを痛感する。ちょっと意識してみます。

「黒澤明という時代」を出した際に、映画評論家の芝山幹郎さんとの対談を行なっている。芝山さん曰く、<「小林さんの映画のご本はいつもそうなんですが、読者をそそのかす強い力がありますね」>。そうなんですよ、未見の作品、観たくなるのです。しかも、選んだ基準を小林さんは、こう書いています。


<気がつくと、「羅生門」「ツィゴイネルワイゼン」といった秀作群に触れられなかった。しかし、どんなベスト表にも入るだろう映画は今回、忘れましょう。どうしようもなく面白い作品のみ書きます>

“どうしようもなく面白い作品“、観なければ!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?