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遂に発表された最初期の作品群〜大友克洋全集第1巻「銃声」

2022年の1月から刊行がスタートした大友克洋全集だが、2022年の5月に第3巻「ハイウェイスター」と第4巻「さよならにっぽん」が出た後は、アニメ「AKIRA」関連の美術書籍とも言える二冊のみがリリースされ、1年が過ぎた。

そしてこの7月、1年以上のインターバルが空いて、マンガ作品集が刊行された。今日はその一冊、全集第1巻「銃声」である。

大友克洋のデビュー作が「銃声」であることは既知だったが、読んではいない。なぜなら、単行本化されていなかったからだ。第8作の「BOOGIE WOOGIE WALTZ」からは単行本化され、この全集版でも既に刊行されている。

なぜ、単行本に収録・再発表されなかったのか。大友の意向が「とても単行本化できる作品ではない」と、何かで読んだ気がする。

今回の全集版は、さらにサプライズがあった。「銃声」の前の、未発表作品までが収録されている。

1973年「銃声」でのデビューに先立つ、1971年大友十七歳の年に雑誌「COM」に投稿された作品「海が・・・」が最初に掲載される。

「COM」は、手塚治虫が“まんがエリートのためのまんが専門誌“というキャッチフレーズで創刊された。大手出版社の雑誌とは一線を画したプラットフォームで、手塚の「火の鳥」が発表された。

大友の「海が・・・」も、登場人物は一人、彼の内面を表現した作品になっている。これに続き、「戦場ー習作」、「まっちうりの少女」、「ルイーズ」と未発表作品が続く。

本書の解説で、試行錯誤していた様子を大友自身が書いている。それにしても、それぞれタッチは違うのだが、絵が上手い。

解説によると、雑誌「りぼん」に投稿した「ママの誕生日」という作品があったそうだ。原稿が返却されていなかったため手元にないようで、<タイトルからして樹村みのりさんの影響を受けてそうですね>と書いている。私も樹村みのり大好きなので、大友が少女マンガど真ん中の「りぼん」に、どんな作品を送っていたのか、見てみたい。「りぼん」編集部は原稿を探し当てて欲しい。

そうして、いよいよ「漫画アクション増刊」1973年8月4日号掲載の「銃声」へと続く。

もちろん、初めて目にするのだが、扉には<(マテオ・ファルコネ)より 作:プロスペル・メリメ>とある。原作つきだったのか。メリメは、フランスの作家で、その作品「カルメン」はオペラにもなった。

解説によると、<当時「漫画アクション」は海外を意識していたこともあり、海外の原作ものになりました>とある。

フランスのマンガ、バンド・デシネ、中でもメビウスの作品から大友克洋は影響を受けているが、この「銃声」はセリフを仏語に換えれば、バンド・デシネとして出されていても全く違和感はないだろう。

この後も、「親友(原作:ポー)」、「スマイリーおじさん(同マーク・トウェイン)」と原作ものが続くが、ストーリーの空気感に応じて、絵のタッチが変化するのが凄い。

最後の四編はオリジナル・ストーリーが中心だが(「上海かぜ」は原作つき。その理由は解説にある)、絵が写実的・映画的になっていく。

こうして、商業デビュー前の作品、海外原作付き作品、オリジナルと見ていくと、それぞれの特徴がいい塩梅にミックスされたものが、その後の大友克洋ではないかとも思う。

それにしても、デビュー当時における画力の完成度の高さには改めて驚かされる。なぜこれまで単行本化されなかったのか、不思議。全集刊行の大いなる意義の一つである


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