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第17回桂吉坊・春風亭一之輔二人会(その2)〜「甲府い」を分厚く語る

(承前)

「口入屋」の満足感が残る中、桂吉坊が再び登場。お亡くなりになった、市川猿翁の思い出を語る。吉坊の師匠、桂吉朝(前にも書いたが、彼が50歳という若さで他界したのは、上方落語界の大いなる損失だった)も歌舞伎が大好きだったが、師匠に負けず劣らず、吉坊は歌舞伎はじめ芸事に造詣が深い

大師匠桂米朝宅で住み込みの修行時代、当時三代目市川猿之助であった猿翁が演じた「黒塚」の素晴らしさ、続いて上演された「一本刀土俵入」で涙した話をふり、芝居きちがいの若旦那の話へ入る。

桂吉朝の十八番でもあった「七段目」である。歌舞伎のセリフ・所作、声色、師匠も素晴らしかったが、吉坊のそれも素晴らしく、客席からは数度拍手が鳴った。若旦那が二階へと引っ込み、そこに上がっていったのが、これまた歌舞伎好きの丁稚・定吉。二人で、「仮名手本忠臣蔵」のまねごとを始める。階下にも通る台詞の声で、父が怒る。番頭が二人をおさめるために、二階に上がり、「旦那さんが、真っ赤になって怒ってまっせ」と。これに応える若旦那、「真っ赤になってる、それやってる芝居が“あこう“浪士」正確ではないと思うが、こんな感じでサゲた。

ほぼほぼ「七段目」だが、持ち時間の関係もあり、少し手前で切った。どう記録するか考えていたが、終演後に演目が張り出されており、「あこう芝居」とあった。なるほど。

一之輔は、ネタ出しの「甲府い」。正直言って、この話あまり好きではなかった。

一旗上げようと東京に出て行きた若者・伝吉、いきなりスリに遭い、空腹が頂点に達した時、豆腐屋の店先におからが。思わず知らず、手づかみでこれを食べるのだが、当然に店の人間につかまってしまう。

豆腐屋の主人が事情を聞くのだが、伝吉は甲府の出身、身延山で願掛けをし、上京したと知る。身延山は日蓮宗の総本山、主人の宗旨も法華、これが縁となり伝吉は豆腐屋で働くことに。。。

単純な話であり、良い人しか登場しない。そのせいもあって、盛り上がりに欠ける演目と感じていたが、一之輔の手にかかると、しっかり笑いを取ってくるし、伝吉と主人のキャラクターが立っている。一種の人情噺だが、「あぁ、いい話を聴かせてもらった」という、清々しさが残った。

客席の拍手の響きもひとしおで、満足が会場を後にした。

この二人会、次はいつだろう。見逃せない公演である

*こちらは、数年前の「七段目」



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