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2024年は「源氏物語」を読もう(その1)〜平安時代は耳から入れた

2024年のNHK大河ドラマは「光る君へ」、大石静が「功名が辻」以来の大河ドラマの脚本を担当、主役は紫式部で演じるのは吉高由里子。「源氏物語」の作者と藤原道長(柄本佑)をめぐるドラマとはどのようなものになるのだろうか。

私が定期的に訪れる三省堂書店有楽町店には、紫式部/源氏物語コーナーが出来ている。「源氏物語」については、数年前に、Audible配信のオーディオドラマと、瀬戸内寂聴現代語訳(講談社文庫)の合わせ技で通読した。感想は「こんなに面白かったんだ」である。

ただ、私の中では、まだ「源氏物語」は完結していない。そのタイトルにならったかのように、窯の中にあるかごとく本棚で熟成を重ねている、橋本治の「窯変 源氏物語」(中公文庫)、三省堂にも並ぶ文庫化が始まった角田光代訳(河出文庫)など、チャレンジしたいバージョンも待ち構えている。

とまぁ、「源氏物語」の世界再訪への機運が高まってしまい、年末に上述のAudibleを聴き直し始めた。あらためて聴くと、やはり滅法面白い。最初に聴いた時は、内容をフォローすることが先行していたが、2度目はより深く味わうことができるように感じている。

橋本治は「これで古典がよくわかる」(ちくま文庫)の中で、<『源氏物語』は、複雑な少女マンガのようなもの>、<登場人物がやたらと多くて、その人間たちがみんな複雑な心理や社会的背景をかかえています>と書いている。そしてこの複雑な内容を、「和文体」という「かんたんな文章」で書かれていることが、「源氏」の<わかりにくさの正体>とする。したがって、少女マンガをスラスラ読めるような「慣れ」が必要と説くのだ。

私が読み/聴いているのは現代語訳ではあるが、文章の骨格は同じであり、2度目がより心地よく感じるのは、多少の「慣れ」を感じているのかもしれない。そしてその内容は、“複雑な少女マンガ“(橋本さんは、ポジティブな意味でこの表現を使用している)なのだから、読みがいがあるに決まっている。

さらに今回の発見は、「源氏物語」の“攻略法“の一つは耳から入ること、である。瀬戸内寂聴の「源氏物語」巻一の解説を読むと、印刷技術のなかった紫式部の時代において、物語は朗読されるものであったことに気づかされる。「源氏」の<最高の読者は、一条天皇と中宮彰子>であり、<声の美しい女房が読みあげるのを天皇と中宮と 、そのまわりの女房たちが聞く 。片隅に紫式部は出来るだけ目立たぬように控えて 、人々の反応に神経を鋭らせ 、観察している 。作者としての満悦は頂点に達する>。

なお、本解説によると、「光る君へ」で柄本佑が演じる藤原道長は、天才小説家・紫式部を支えた強力なパトロンである。

橋本さん言うところの「かんたんな文章」は音読に適しており、オーディオブックで「源氏」を聴き、物語の先を知りたくなるというのは、平安時代の読者の状況を追体験しているとも言えるのである。

明日は、もう少し“攻略法“〜と言っても、単に私が実行したプロセスだが〜について書く


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