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「はばたけ!落語と講談四人衆」(その2)〜小春志の「大工調べ」は絶品!

(承前)

講釈師の田辺銀冶(ぎんや)が登場。この落語2席、講談2席という組み合わせは良い。しかも、女流で揃えると、まとまりがよくバランスが取れているように感じた。もちろん、“はばたけ!“のタイトル通り、今後の活躍が期待される面々。報知さん、これからも頑張って下さい。

田辺銀冶の母は田辺鶴瑛、講談界初の母娘真打である。銀冶は母の師匠でもある田辺一鶴に1999年入門、しかし2001年に一旦休業し、海外を旅することになる。そこで改めて日本の伝統芸の道に戻る決意をして2006年に復帰、前座として修行を再開する。しかし、師匠一鶴が2010年に鬼籍に入り、悩んだ結果、母の弟子となる。2年後に二つ目、そして2021年に真打に昇進した。

先日書いた一龍斎貞鏡同様、銀冶の高座姿もキリッとしていた形が綺麗である。気持ち良い口調で始まったのが「池田輝政〜婿引出」。

池田輝政は織田・豊臣に仕えた武将で、小牧山の合戦では徳川方に父・兄を討ち取られる。合戦後、秀吉と家康は和睦するのだが、輝政は家康を親の仇として和解しない。案じた秀吉が、二人の関係修復のため、家康の娘と輝政の婚儀をアレンジする。輝政の男気が描かれる清々しい読み物である。

なお、輝政は秀吉没後は徳川家康と近くなり、関ヶ原の合戦を経て、外様大名として姫路藩主に。姫路城の大改修を行い、ユネスコ世界遺産・国宝となる白鷺城のベースを築く。

満足度の高い好演だった。ただし、今年1度銀冶の高座を聴いており、その時と同じ演目だった。こういうこともある。

さてトリは立川小春志、彼女のみネタ出しで「大工調べ」である。先日の襲名披露を観て、もっと彼女の高座を聴きたいと考えたのが、本会に来たそもそもの動機であある。

家賃を滞納して道具箱を大家に取り上げられた与太郎。棟梁に助言され大家と交渉するが失敗、義侠心に駆られた棟梁が大家のもとへと乗り込んでいく。

大家に向かっての棟梁の啖呵が見どころの一つだが、小春志のそれは下手な男性落語家よりもはるかに迫力があり、テンポも素晴らしい。思わず客席から拍手が起こる。

多くの女流落語家は登場する女性の描き方に意を払い、女性ならではの表現を試みる。(このアプローチを否定するわけではない)しかし、この小春志という落語家は、ジェンダーというものを飛び越えて、落語に真正面から組み合っている。ちなみに、この「大工調べ」という噺には女性が登場しない。

絶品の「大工調べ」、凄い若手真打が出てきたものである。

前回書いた通り、私にとっては師匠談春が不在の中で観る初めての小春志。自由に話し、自在に演じるこの日の彼女を観て改めてそう感じた

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