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「ベルファスト」好きな映画です〜ケネス・ブラナーに栄光を

イギリスの正式な国名は、「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」である。グレートブリテンを領土とする、いわゆるイギリスは主としてカトリック教徒が住むアイルランドに進出する。その後、アイルランドはイギリスに抵抗し独立するが、イギリスから来たプロテスタントが多く住む北アイルランドは、イギリスの一部として残る。

北アイルランドでは、当然にしてプロテスタントが支配し、カトリック教徒は公然と差別を受けていた。1960年代に入りアメリカの公民権運動の影響もあり、カトリック教徒が権利を主張し始めるが、それに対し一部のプロテスタントは暴力を持って襲いかかる。

映画「ベルファスト」の中で、ケネス・ブラナー監督の分身、9歳のバディが生活するのは、そんな社会不安により騒然とする北アイルランドの街である。

ブラナー監督の自伝的作品、結論を申し上げると、私は好きな映画でした。冒頭、ヴァン・モリソンの歌が流れた瞬間に、この映画は“素晴らしい“に決まっていると感じます。

上記のような時代背景の中、もう少し重い映画かと思いましたが、深いテーマをケネス・ブラナーは軽やかにそして、希望的にこしらえてくれています。最後に、書きますがアカデミー賞の時期がずれていたら、作品賞とったのではと夢想したのでした。(実際は脚本賞のみ)

ここからほんの少し内容に触れます。時折、集団暴力的な事態が起こる街にあっても、子供の生活は決して世の中の暗さに塗りつぶされる訳ではありません。ほのかな恋、サッカー、コミックブック(「マイティ・ソー」実写版はブラナーが監督!)

一方で、景気の低迷→暴動→経済活動ますます低下、という負のサイクルに襲われる街は職が不足し、バディの父はベルファストを離れ、ロンドンへ出稼ぎにいく生活。こうした状況は、バディたち子供の生活にも影響を与えていきます。

社会の混乱、分断や暴力のしわ寄せは、女性と子供に行き、彼らは難しい立ち位置に陥ります。いつの時代でも、どこの国でも同じことです。

そんな中、バディが夢中になるのは劇場やテレビで見る映画、芝居です。「ベルファスト」は全編モノクロで描かれますが、映画・舞台はカラーの世界です。

バディがTVで見ていたのは、ジョン・ウェインとジェームズ・スチュアートが出演した「リバティバランスを射った男」、ゲイリー・クーパーとグレイス・ケリーが夫婦役で出た「真昼の決闘」という西部劇。

「ベルファスト」のクライマックスの場面は、「真昼の決闘」をダブらせるもので、バックにはアカデミー歌曲賞を取った“Do Not Forsake Me, Oh, My Darling“が流れます。この辺りの趣向は、評価が分かれるかもしれませんが、ブラナーが励まされた多くの映画に対するオマージュとして、私は好きなシーンでした。

時節柄、どうしてもウクライナの状況で関連づけるてしまいます。アカデミー賞の投票締め切りはロシアの侵攻前、それがずれていたら、「ベルファスト」に投票した人はもっと増えたのではないかと思うのでした。この映画には、暴力に翻弄される人々が描かれると共に、故郷の重要さ、未来への希望、そして映画が果たしてきた力が映されています。

ちなみに、前述の「真昼の決闘」の劇中曲の作者、ディミトリ・ティオムキンが作曲した映画「アラモ」のテーマが、4月3日放送のラジオ「山下達郎 サンデーソングブック」で流れました。放送によると、ティオムキンはウクライナ生まれのユダヤ人とのことです。

ケネス・ブラナーはアカデミー賞には縁がなく、俳優としても監督としても獲得していませんでしたが、今回ようやく脚本賞を受賞しました。いつか、ケネス・ブラナーの回が来るとよいですね


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