父の教え(1分小説)

美奈子は、おちょこちょいなところがある小学生の女の子だ。
明るく元気なのが取り柄だが、どこか抜けている。

今朝もお母さんに
「遅刻するわよ。」
って、起こされて、慌てて学校へ行く始末だ。
「あっ、消しゴム持ってくるの忘れた。」
隣の席の島田君に
「ごめん、消しゴム貸して。」
とお願いしたら、
島田君は、あっさり
「いいよ。」
と言ってくれた。
美奈子は
「ありがとう。」
と言って、消しゴムを借りた。

美奈子の遅刻癖、忘れ物癖は、なかなか治らなかった。
そのたびに、お願いしては、ありがとう、と言っては借りていた。

そうはいっても、社会人になったら自覚が出て来たのか、寝坊や忘れ物をする癖はなおってきた。

成人式の日、お父さんは、美奈子に
「人生で大切なものは、一つだけある。それをいつまでも忘れずにいなさい。」
と言った。
一体、何のことか美奈子には分からなかったが、美奈子の人生の宿題となった。

美奈子は、ある男性と付き合い始めた。
その男性は、職場で一緒に仕事をする仲間だった。
デートを重ねているうちに、美奈子は、
「私のどこが気に入ったの?」
と訊いた。
「美奈子は、いつも、ありがとう、と言ってくれる。親の躾がよかったんだね。」
と、その男性が言った。
美奈子は、
「そんな事ないよ。」
と、言ったが、ハッとした。

お父さんが、言っていた大切なものは、ありがとうだ、という事に美奈子は気付いた。

美奈子は、その男性に、心を込めて今までで最高の、ありがとう、と言った。
その男性も、
「僕こそ、ありがとう。」
と心を込めて言った。
そして、二人は、その場で、熱いキスをしたのでした。

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