スワヴェク・ヤスクウケ・セクステット『コメダ(Recomposed)』を楽しみ尽くすための音源集

明日6月20日に、ポーランドのピアニストSławek Jaskułke スワヴェク・ヤスクウケの最新作第一弾『コメダ(Recomposed)』の国内盤が発売されます。セクステット名義になっており、ライナーは僕が書いております。

詳細 → http://www.coreport.jp/catalog/jazz_inst/rpoz-10041.html

ちなみに「最新作第一弾」と書きましたが、第二弾はピアノソロの『夢の中へPartII』です。どちらもおなじみコアポートからのリリースです。

夢の中へPartII → http://www.coreport.jp/catalog/jazz_inst/rpoz-10042.html

さて、ライナーでもむちゃくちゃ詳しく触れているのですが、このセクステットによる演奏は、何の予備知識もなく聴いても最高にカッコいいです。しかし、その音楽の性格上、いくつか参照したほうがいい音源を聴くとより楽しめるようになっています。

ライナーではどうしても音そのものを聴いていただくことはできませんので、それら参考音源をここにちょっとまとめておきます。この記事を読んで興味を持たれた方は、情報量たっぷりのライナーになっていますので、ぜひアルバムを購入してご笑覧ください。

まず、このアルバムはポーランドのジャズ史上最高のミュージシャンと今もリスペクトされまくっているKrzysztof Komeda クシシュトフ・コメダの名曲群を、ヤスクウケ独自のやり方で再構築しています。ちなみにコメダは1950年代前半にデビューし、1969年には亡くなっているので、活動期間自体は短いミュージシャンでした。では、そのコメダの曲にはどんなものがあるのでしょうか。

映画『水の中のナイフ』(ロマン・ポランスキ監督)より「Crazy Girl」

ポーランド・ジャズ史上オールタイム・ベスト1に挙げられる、現代ポーランド文化を代表する一作『Astigmatic』より「Kattorna」

デンマークの映画監督Henning Carlsenの映画に書き下ろされたサウンドトラックより。

コメダは、ヨーロピアン・ジャズの革命者として以上に、非常にすぐれた映画音楽家としての側面が強いジャズ作曲家でした。彼が映画音楽にのめり込んだ理由は、ポランスキやJerzy Skolikowski イェジ・スコリモフスキら当時の若い映画監督たちとプライベートでも親しい友人同士だったことなどもありますが、一番の理由は上の動画でも聴かれる彼のサウンドの特徴ゆえでした。

彼の曲って、旋律がものすごく短くてその繰り返しになっているか、いくつもの短いメロがつながって成立しているようなものばかりなのです。メロディを朗々と歌わせない彼の音楽は、適度に距離を置いた醒めた雰囲気があり、映像と非常に相性が良かったんですね。

彼の一番有名な曲は、ポランスキのハリウッドデビュー作となった『ローズマリーの赤ちゃん』のテーマ曲です。今では主にポーランド国内でその楽曲がカヴァーされることが多いコメダですが、この映画発表当時(1968年)は、むしろ外国でこのローズマリーの赤ちゃんがたくさんカヴァーされました。

ファニア・オールスターズからレーモン・ルフェーブルまで、そのカヴァーヴァージョンは多岐に渡っています。ポーランド人がこの暗い曲を好きな理由(またはたくさんの外国人ミュージシャンがカヴァーした理由)を、ピアニストのLeszek Możdżer レシェク・モジジェルは「ジャズとポップスの中間のような旋律だからだ」と分析していました。

さて、これまでポーランド国内では、特に90年代以降にものすごい数のコメダ・カヴァー・アルバムが発表されてきたのですが、人と同じことをやりたくない、そして前と同じことをやりたくないという超・天邪鬼なヤスクウケは、まったく新しいアプローチでコメダの楽曲に取り組みました。

「Recomposed」というタイトル、そしてクレジットはあくまで作曲はヤスクウケになっています。カヴァーと何が違うのでしょうか。それは、コメダの楽曲の数々を、あくまでサンプリングのネタのようなものとして取り扱うということです。

あまりにネタとして細かく分断され、音の背景と一体化してしまっているため、よほどのコメダ・ファンでないと元ネタ曲が何なのかわからないものもあります。

ただし、その「サンプリング」は、ターンテーブルや作曲ソフトなどのハードを使って行うのではなくて、テレビのザッピング的にコメダのフレーズが断片的に見え隠れする非常に複雑で巧妙なアレンジと、人力による演奏で行われるのです。

つまり、手法そのものはすごくデジタルな発想なんですが、実施方法は愚直にアナログなんです。ヤスクウケの音楽に対するこの視点は、何もこの『コメダ(Recomposed)』でいきなり獲得されたわけでなく、ずっと試みられてきたものでした。

では試しに、同じ曲を演奏したスタジオ版とライヴ版を聴き比べてみましょう。

ヤスクウケは以前インタビューした時に「自分のピアノソロは、アドリブの要素はほぼなくて、スコアに書かれているものの強弱やスピード、繰り返し方をその場で変えることで、違った色彩を加えていく」というようなことを言っています。

この2つのバージョンも、下のライブ版はアドリブで自由度をふくらませるとかアレンジを変えるという発想ではなくて、スタジオヴァージョンを細かなパーツに分解して、それぞれの繰り返し方、組み合わせ方に変化を与えながら弾いています。言わば、演奏と編集の2つの作業を同時にやっているんですね。クラシックで言う「変奏曲」に近い考え方です。

なので、彼の生演奏を聴いても「これはどの曲なんだっけ?」とよくわからなくなるんですね。好きなあのメロディが素直に現れないからです。この、きわめて現代的な手法をアンサンブルのフォーマットに落とし込んだのが今度の『コメダ(Recomposed)』なわけです。おそらく、近年話題になった『Sea』や『夢の中へ』などはこの発想がベースになって作られているはずです。

こうしたヤスクウケの発想は、実はコメダの音楽性と非常に相性が良い。なぜかと言うと、コメダの音楽も「小さなパーツ」を繰り返したりくっつけたりしたような曲がほとんどだからです。あくまで想像でしかないのですが、コメダもテクノやヒップホップなどが生まれる時代まで生きていたら、きっとその手法を積極的に取り込んだと思います。

あと、コメダはその偉業ぶりからポーランドのマイルスとかコルトレーン的な存在と言われることが多いのですが、実際はセロニアス・モンクに近い音楽性の持ち主だったと思います。

曲の中の短めの旋律をモチーフにして、演奏を展開する。音楽の軸が、コード進行やモードではなくて、メロディなんですね。ヒップホップとジャズの親和性がかつてないくらいに高まっている現在、モンクの再評価が進んでいるのも、その音楽を構築する単位が「短い」「小さい」ので、サンプリング・ネタ的に聴けるからという理由もあるでしょう。

例えばこの動画↓など、時々微妙に「よれる」ピアノプレイも含めて、コメダの「モンクらしさ」が如実に表れたものかと思います。

ヤスクウケが目論んだことはもうひとつ。このサンプリング的演奏法を用いることで、現代の音楽の数々をショーケース的に混ぜ込むということですね。ヤスクウケが以前コメダについて語ってくれたことに「彼の楽曲には、彼が生きていた当時の音楽の要素がごちゃまぜに入っている」という意見がありました。

セクステットでは、現代のポーランド・ジャズ・シーンの中でも特にヤスクウケが評価する3人の若手管楽器奏者がメンバーに選出されています。彼らは、いずれもAlgorhythm、Tomasz Chyła Quintet、Quantum Trioと言った人気グループのメンバーでもあります。彼らの感性が注入されることで、本作のコンテンポラリーな手法が完成したと言ってもいいのではないでしょうか。

トランペットのEmil Miszk エミル・ミシュクはAlgorhythmから。

テナーサックスのPiotr Chęcki ピョトル・ヘンツキはTomasz Chyła Quintetから。また、上記Algorhythmのメンバーでもあります。

もう一人のテナーサックスMichał Jan Ciesielski ミハウ・ヤン・チェシェルスキはQuantum Trioから。

上で挙げた3グループはいずれも若いファンに人気が出始めています。ちなみに、トランペットのEmilと、ベースのPiotr Kułakowski ピョトル・クワコフスキ、ドラムのRafał Ślesarski ラファウ・シレサルスキCritical Levelというグループを組んでいるようです。

本作『コメダ(Recomposed)』が魅力的なのは、多くのコメダ・カヴァー作と違い、懐古精神がほとんどないからなのだと思います。また、ヤスクウケもかつては荒ぶる若者で、かなり挑戦的なスタイルで自らのジャズ道を突っ走っていました。そのセンスはまだ錆びついちゃいないんですね。

なので本作ではコメダの楽曲は、ヤスクウケの「もっと新しいことを試してやろう」という探求心の材料にしかなっていない。この「リスペクトはしてるんだけど、あくまでネタとして見ている」的な、冷静な視線も、本作が今のリスナーに響くポイントなのかなと考えています。

最後に、YouTubeはあまり好きじゃないとか、もう少し「ながら聴き」したいという方のために、Spotifyのプレイリスト作りました。

コメダの音楽性がよくわかる代表曲、またはそのカヴァーヴァージョンを並べています。また、ヤスクウケや若手メンバーたちのグループの曲も入れてあります。『コメダ(Recomposed)』がもっと面白くなるはずなので、ぜひそちらもお楽しみください。

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