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「地球上で最も人気のあるスポーツの力を、地球を守るために利用する」 レアル・ベティスの"Forever Green"について調べてみた

アジアの舞台に戻れなかった。

2020年の終わりが近づいた今、ひとりの浦和レッズサポーターとして、胸に去来する思いである。

全北現代、蔚山現代、水原三星、北京国安、上海申花、上海上港、広州恒大、シドニーFC…。アジアの「友人(笑)」たちをテレビで見ていると、なぜ自分たちがそこにいないのか少し不思議な気分にもなった。「ウラワはどうしたんだ?」とフッキとオスカルが会話していたかもしれない。2013年以降、レッズが2年続けてACLに出場しないのは初めてとなる。来季またこの悔しさをかみしめることだろう。
(出典:浦和レッズオフィシャル・マッチデー・プログラム(MDP)597号 編集後記

ACL準々決勝でヴィッセル神戸が水原三星との死闘を繰り広げた12月10日、2017年のACLで輝いた長澤和輝が、こんなツイートをした。

浦和レッズが長年行っている「ハートフルクラブ」という活動に関する記事を紹介しているのだが、この記事の内容がとにかく素晴らしい。活動の概要は知っていたけれども、個別のエピソードは初めて知ったので、本当に感銘を受けた。

このハートフルクラブ、最初は国内ではじめたのだが、2007年、ACLに初出場したことをきっかけに、アジアでも展開するようになったと記憶している。それから13年が経ち、「国の代表選手が選ばれる」までになったというのは、素直に凄いことだと思う。

これを続けていくためにも、アジアの舞台に戻らなければならない、と強く思った。

僕は、サッカー選手やクラブが実践する、社会的な取組みが好きだ。

折角OWL magazineに寄稿しているのだし、何かできないか。

この記事は「旅とサッカー」をコンセプトとしたウェブ雑誌OWL magazineのコンテンツです。OWL magazineでは、多彩な執筆陣による、アツい・面白い・ためになる記事を、月額700円で月12本程度読むことができます。

OWL magazine編集長の大澤あすかさんは、「三度の飯よりスポーツビジネスが好き」で、「ここが好きだよ!Jリーグビジネス」と題する連載をしている。Jクラブを北から順に攻めており、もう北関東まで来た。浦和レッズが登場する日も近い。

これだ。このソーシャル版をやってみよう。

あすか編集長の連載が「ビジョナリー・カンパニー」的なものだとすれば、僕の方は、そのソーシャルセクター版と言われる「世界を変える偉大なNPOの条件」のイメージである(大それた例えで恐縮だが、好きな本なので)。

Jリーグの社会連携活動(シャレン!)は世界でもトップクラスなので、事例には事欠かないだろう。ただ、網羅的にやろうとすると三日坊主になりそうなので、「北から順」のような法則は設けない。また必ずしも国内に限定しない。

定期連載になるかはわからないが、関心の赴くままに、気になる事例を調べて、勝手に紹介したい。

記念すべき第1回は、スペイン1部ラ・リーガのレアル・ベティスを取り上げる。

レアル・ベティスの”Forever Green”

2020年10月29日、レアル・ベティスはForever Greenという活動を立ち上げた。ラ・リーガ、そしてスペイン政府とも協働しており、ラ・リーガ本部で行われた記者会見には、スペインのエネルギー大臣も出席したようだ。

まずはコンセプト映像から見てみよう。YouTubeには英語版があったが、クラブ公式の日本語版ツイッターアカウントでは日本語字幕が入っていたので、そちらのリンクも貼っておく。

グリーンは、レアル・ベティスのチームカラーだが、環境という意味もある。No planet, no footballという標語もあるように、大雑把に言えば、地球環境を守るための取組みである。

注目されるのは「プラットフォーム」という言葉だ。特設サイトには、「地球を守ることを助けるために、地球上で最も人気のあるスポーツの力を利用(uses the power of the most popular sport on the planet to help saving it)」するとあり、レアル・ベティスの知名度を生かすもののようだ。

誰のためのプラットフォームかというと、「地球の将来のために、今取り組んでいることを世界に見せたいと思っているパートナー(partners who want to show the world what they are doing today for the future of our planet)」とある。

テーマは、気候変動(Climate Change)、リサイクル(Recycling)、モビリティ(Mobility)、自然(Nature)、サステナビリティ(Sustainability)の5つ。

これまでに行った活動として、試合用ユニフォームにリサイクルしたプラスチックを使用、Guadalquivir川の河岸の清掃、スタジアム(Estadio Benito Villamarín)の照明をLEDに変更、スタジアムにリサイクル用の回収箱の設置などが挙げられている。

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レアル・ベティスとClimate Neutral Now

5つのテーマの中でも、最も重きが置かれているのは気候変動のようだ。

ウェブサイトには、「今日の何百万のファンを、未来における気候変動と同志とする(make the millions of fans of today our allies to fight against climate change tomorrow)」という一文もある。

具体的な取り組みは2つある。

1つ目が、カーボンフットプリントの低減。カーボンフットプリントとは、直訳すると「炭素の足跡」となるが、要するに、レアル・ベティスの活動(調達した商品やサービスなども含む)に起因する、温室効果ガス(二酸化炭素など)の排出量を減らすことだ。

明記はされていないが、例えば、スタジアムや練習場で使用する電気を再生可能エネルギーにすることや、調理や暖房用のエネルギーをガスから電気に変えることなどが考えられる。

2つ目は、カーボンオフセット。どうしても残ってしまう温室効果ガスの排出については、他での排出削減に貢献することで相殺(offset)するというものである。レアル・ベティスの場合、コスタリカのOrosi風力発電所に対する、25基の風車(出力2メガワット)の導入を支援するようだ。

このように、温室効果ガスの排出を削減し、残る排出をオフセットすることによって、排出をゼロにすることを、climate neutralあるいはcarbon neutralと呼ぶ。

最近では、10月26日に、菅義偉首相が「2050年カーボンニュートラルの実現」を宣言したことがニュースになった。

「我が国は、二〇五〇年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち二〇五〇年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。」
(出典:第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説

レアル・ベティスは、Forever Greenに先立って、2019年3月にclimate neutralの宣言をしている。そして、国連が主導するClimate Neutral Nowイニシアティブに参画している。

僕がレアル・ベティスによる取組みを知ったのは、むしろこちらのニュースだった。そして、2020年12月12日、パリ協定採択から5周年を迎えたこともあり、このニュースを思い出したので、今回取り上げてみた。

2019年、スペイン、気候変動といえば……

ここまで読んで、もしかして、と思った方もいるかもしれない。

というのも、2019年には、スペインの首都マドリードで、

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