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括弧の最後に「。」をつけたくなる日もある

一般的に、括弧で括られた文章に句点をつけてはいけないとされている。

OK例:
〜〜よろしくお願いいたします。(先日の飲み会、とても楽しかったです)

NG例:
〜〜よろしくお願いいたします。(先日の飲み会、とても楽しかったです。)

OK例:
「こんにちは。また会えたね」

NG例:
「こんにちは。また会えたね。」

編集やライティングの仕事をしていると、他者の文章をチェックする機会も自然と多くなる。

そのときに、上記NG例のような括弧終わりの句点を見ると、粛々と訂正を入れる。だけど時々、句点ありの文章が「ああ、良いなあ」と思えることがあるのだ。

最果タヒさんの最新詩集『落雷はすべてキス』に、「新しい日」という詩が収められている。詩の最後は、こんなふうに締められている。

誰もぼくらを責めずに夜の下で、
変わらない美しさのふりをしている、
だから不変のふりをして、
ぼくはきみのことを愛している。)

(最果タヒ(2024)『落雷はすべてキス』新潮社、P46〜47より引用)

この詩が秘める、個人の祈りのような響き。

余韻さえも括弧で包み込むような流れの中で、「。」が持つ意味はとても大きい。この「。」を消すと、祈りとして完結しないように僕は思える。

最果タヒさんのような詩を綴れる人は稀だけれど、文章の巧拙を超えて、「ああ、この文章には『。』を添えた方が良い」と感じることは案外多い。

赤入れする手を止めて、しばし書き手の思いに耳を傾ける。

仕事は進まない。だけど、その瞬間、とても幸せな気分になるのもまた事実なのだ。

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