見出し画像

印象に、正解も不正解もないけれど。

SNS全盛期、直接会えない「誰か」に対して、なんらかの印象を持ちやすくなった。

「あの人って、きっとこんな性格だろうな」とか、「彼は嫌なやつに違いない」とか、発言内容やトーンなどによって判断ができる。

その判断は、どういった集団や傾向にあるかによって正反対の印象になることもある。例えば先日亡くなった元首相の安倍晋三さん。「安倍さんの笑顔が素敵だった」という人もいれば、「あんな極悪な政治家はこれまでいなかった」という人もいる。

あくまで印象なので、そこに正解も不正解もない。印象と、実際の姿は違って当然だ。会って話してみると「意外に良いやつだった」なんてケースは枚挙に暇がない。

*

話は、時事のことへ。

内閣府政府広報室が公開している「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」。最新版は2018年発表のもので、設問のひとつに「全般的に見てあなたは自衛隊に対して良い印象を持っていますか,それとも悪い印象を持っていますか」というものがある。(先ほど書いた「印象」と用法は違わない)

良い印象を持っている(「良い印象を持っている」と「どちらかといえば良い印象を持っている」の合算)は89.8%で、悪い印象を持っている(「どちらかといえば悪い印象を持っている」と「悪い印象を持っている」の合算)の5.6%を大きく引き離している。3年前調査よりやや悪化したが、微減程度だといえよう。

また1969年からの推移を見ると、印象の良化は明らかだ。「広報」という観点でみると、自衛隊のPublic Relationに大きく成功したといえるだろう。

上記は2015年調査資料のもの

一方で、自衛隊への入隊志願者は減少傾向にあるそう

印象は良いけれど、実際に自衛隊と「関わり」を持つことは別。「求人」という観点でみると、求職者はシビアに職選びを考えているようだ。

*

20222年9月15日の朝日新聞「耕論」、「自衛隊 見える姿は」というテーマでジェンダー研究者、メディア研究者、社会学者がそれぞれ持論を展開していた。

その中でジェンダー研究者の佐藤文香さんは興味深い話をしている。

(広報活動を強化したという)努力に加え、災害救助もあり、世論は自衛隊に好意的です。ただ自衛官の中には、主たる任務は国防だと国民に理解されていないのではないかという、ジレンマに苦しむ人も多いのです。彼らは、主務の国防を隠すかのような広報の打ち出し方や、災害救助に憧れ「勘違い」して入隊する若者の多さにも不満を抱いています。

(朝日新聞デジタル「(耕論)自衛隊、見える姿は 佐藤文香さん、須藤遙子さん、吉田純さん」より引用)

「憲法上保持できる自衛力は、自衛のための必要最小限度のものでなければならない」というのが、防衛省の見解だ。しかし必要最小限度とはいえ、「自衛」という言葉が前に出ていることは忘れてはいけない。

ロシアのウクライナ侵攻や、米中対立激化によって、日本の安全保障に関心を持つ人も増えている。しかしこれまでの広報戦略において「自衛のための戦力」を打ち出してこなかったことの弊害があると佐藤さんは指摘している。

実際のところ、自衛隊は災害救助のための訓練ばかりをやっているわけではない。日本に何かあったときのために、自分たちで国を守るための訓練を積んでいるはずだ。だが、そこに印象と実際との乖離が生まれているように思うのだ。

*

イメージ戦略、という言葉が好きではない。

それは実態を伴わないものだし、行きすぎると消費者を「騙す」ことに繋がるからだ。タイトルにも書いた通り、印象に正解も不正解もない。なのに誰もかれもが「相手にどんな印象を与えるか」に苦心しているような気がするのだ。

正攻法でいけ!と言いたいのではない。何事もバランスが大事だ。

だが、正攻法でいくと支障があるからといって、迂回するような手段ばかりに頼っていると、いずれ現実との間に歪みを起こす。自衛隊や安全保障の議論が進まないのは、「平和ボケ」に浸っている国民のせいだけではないはずだ。

個人にせよ法人にせよ、物事の「コア」から外れたことばかりをやっていてはならない。大切なことを、大切なものとして維持・発展し続ける努力を惜しまずにいたい。

#自衛隊
#安全保障
#印象
#イメージ
#イメージ戦略
#佐藤文香
#朝日新聞
#耕論

記事をお読みいただき、ありがとうございます。 サポートいただくのも嬉しいですが、noteを感想付きでシェアいただけるのも感激してしまいます。