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「マツオヒロミ展 レトロモダンファンタジア」(文京区) レポ

乙女のロマンに満ちあふれた空間と瞬間。

目印となるポスター

まずは概要から。
4月6日から6月30日まで、東京大学の真横にある弥生美術館にて開催中。
地下鉄千代田線の根津駅からが近いですが、坂があるので暑い日は要注意。
毎週月曜が休館日で、4月29日(月・祝)と5月6日(月・祝)は開館するそう。
代わりに5月7日が閉館となります。
10時から17時まで開館しており、竹久夢二の展示も同時開催中です。
隣接するカフェ「港や」では可愛いコラボドリンクも販売中。映える。
小さい美術館なので、ゴールデンウィークは混雑必至です。
和装のお姉様方がわんさかいらっしゃって、素敵な空間でした。
入館料は大人1000円という破格の安さ。
グッズ売り場では、マツオヒロミさんの過去の同人誌から最新の書籍までを網羅して販売しているので、ファンは必見です。

きれい、という言葉は簡単だけれど

私がマツオヒロミさんのことを知ったのは、このツイートがきっかけです。

正直なところ、この言葉が無かったらたぶん私は筆を折っていました。
もしくは美術を嫌いになっていたか、教員を諦めていたか。
かなり精神的に苦しい時期に出会った、先達の言葉だったのです。
私はイラストレーターではないし、国語科教員だし、接点なんかまるでないと思われるかもしれません。
けれども、私はこのつぶやきにとても励まされたことを記憶しています。
好きだから今、物書きの仕事と教員の仕事を両立できていますが、仕事では基本的に「美点」を求められます。
教員であれば知識と徳性を、物書きであれば言葉の正確性などを。
でも、私の授業や成果物は「私のすべて」を使って生み出しています。
私も愚かさを呪いました。悔やみました。今でもそうです。
けれど、それが「オリジナリティ」という恵みにもなるのだと教えてくれたのがこの投稿だったのです。
レトロ感や画風が好きなだけでなく、尊敬できる言葉を放った人の展示を、この目で見て書き留めておきたいと思い、足を運びました。

遅れて来る鳥肌

館内の半分を使って、ご自身の手によるラフ画から書籍の装丁……あらゆる角度からその足跡を展示した、「アートワークが一望できる」内容です。
端々に添えられるコメントも心にぐっときます。
ランジェリーを題材にした作品群では「10代の頃キャミソールが流行った」という体験をもとにして制作をなさったことがわかり、体型を補正するため下着をつけるのではなく、心と体に幸福感をもたらすための下着を描くのだと定義していった過程が華やかなイラストと一緒になって胸を打ちます。

ランジェリーの変遷を描いた作品群


抑圧される女性像ではなく、それぞれ多様で瑞々しい自我を持つ女性の姿をありありと描いた作品を前にすると、最初こそ「わあ!」と気持ちが上昇していくのですが、カフェに入った途端「私の理想はあの絵の中にあったのか」と気付く。そして決める。理想に近づきたいから頑張ろう、と。
時代が交錯するような弥生美術館だからこその体験かもしれません。
でも、あの展覧会で多くのファンの心をいちばん揺さぶる部分は、きっと「なりたい私」が見つかるからだと思ったのでした。

いちばんのお気に入り

「私」を再定義する瞬間が訪れた、震える展示です。

今後の執筆の糧を頂戴できれば幸いです。お気持ちだけで結構です。