「好奇心」を理解する

しばらく前のダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビューに「好奇心」特集の号がありました。その中にあった「好奇心の5つの類型」という記事が面白かったんですね。そこで、おおもとの研究論文を探してみました。

The Five-Dimensional Curiosity Scale: Capturing the bandwidth of curiosity and identifying four unique subgroups of curious people
「好奇心を5つの面から計測する:好奇心の幅の把握と、人物像の4タイプ」くらいの意味でしょうか。好奇心を体系的に調査した心理学研究はこれが初めてだとか。この論文、専門的な知識ゼロの私が読んでも、DHBRの記事よりさらに面白かったんです。素人の私から見たわくわくポイントを覚えておきたく、ここに書いておきます。

まず、好奇心の定義から。

Curiosity can be commonly defined as the recognition, pursuit, and desire to explore novel, uncertain, complex, and ambiguous events. There is the feeling of interest in a situation where a potential exists for learning. There is a desire to seek out novel experiences - to see what happens, to find out how one will react, or discover how others react.

「好奇心とは、新しく、結果が不確実で、複雑、そしてどこまでが対象かも不明確な出来事を探求したいという気持ちを認識し、その探求を欲し、行動しようとする心の動きと定義できる。学びの可能性がある状況において、興味を持つという感情が起きる。何が起きるだろうか、自分はどう反応するだろうか、あるいは他者の反応を見たい、など、新しい経験を求める欲求がある。」

この研究論文では、3つの調査(*1)から、まず好奇心というものをより細かく分析し、次の「5つの要素」を抽出しています。
①Joyous Exploration 心躍る探求
 (素晴らしい事物に驚嘆し魅了された、心地よい状態)
②Deprivation Sensitivity 欠落感
 (足りない知識があると気づく。答えを見出すまで不快)
③Stress Tolerance ストレス耐性
 (新規なものへの不安を受け入れ活かそうとする意思)
④Social Curiosity 周りへの好奇心
 (話す、聞く、観察を通して他者の思考や行動を知ろうとする。噂好き)
⑤Thrill Seeking 高揚感の追求
 (強烈な体験のためなら物理的、社会的、経済的リスクを厭わない姿勢)

基本的に誰でもこの5つの要素を持っていますが、人によってそれぞれの度合いに高低があります。(*2)
ここで面白いのは、はじめの2つの対比です。①の「心躍る探求」は探求自体が快楽であるのに対し、②の「欠落感」は答えが見つかるまでは不快感を覚え、スッキリしたくて探求を続ける心の動きなんですね。どちらも一見すれば「対象を探求している」ように見えますが、本人の内面の真理は真逆です。例えるなら「心躍る探求」は食欲、「欠落感」は排泄みたいなもの?

元の論文では、さらに上記の5つの要素を用いて、3000人を対象にクラスター分析を行っています。その結果、研究チームは4つの人物タイプを抽出しました。この図に詳しく示されています。

ここでいうタイプとは、何なのか。「好奇心を持ったとき、あなたは何を感じどう行動しますか」と問われたとして、回答の傾向が近そうなグループ分けだと理解すればよいようです。論文では、タイプごとにパーソナリティー因子、価値観、学歴や収入、ソーシャルメディアの使い方まで特徴量を分析し、人物像を描くこともしていました。少しだけ説明を抜粋してみます。

1. Fascinated(わくわくタイプ)
心躍る探求、ストレス耐性、高揚感の追求の3要素が他のクラスターより高く、逆に欠落感が最も低いという特徴があります。人物像としては、興味の幅が広く交友関係も活発、全般に高学歴で高収入。快楽、社会正義、ロマンスに価値を見出しており、あまりストレスを感じることはない、というイメージです。人生を謳歌しているタイプ。

2. Problem Solvers(問題解決タイプ)
欠落感とストレス耐性が高く、周りへの関心が低いという特徴があります。クロスワードパズルに熱中している人、というイメージ。日本ですと、クロスワードパズルよりも数独のほうがイメージがわくかもしれませんね。友達とおしゃべりするよりも一人で課題を解いたり情報を探したい、何よりも周りに干渉されないことに価値をおくような人物像です。勤勉とも言えます。わくわくタイプが幅広い分野に興味を持つのとは対照的に、問題解決タイプは特定の領域に集中していく傾向があります。

3. Empathizers(共感タイプ)
周りへの関心が高く、ストレス耐性と高揚感の追求が低め、という特徴を持つクラスターです。神経質でストレスを感じやすいと自己評価をし、他者が考えていることや行っていることに興味があります。きちんとしていると周りに思われたいという度合いが他のクラスターに比べて強く、周りからの評価を高めることに価値をおきます。社会正義や環境問題には、わくわくタイプや問題解決タイプほど価値を見出していません。実は受け身です。このクラスターは女性が多いそうです。

4. Avoiders(無関心タイプ)
他のクラスターと比べて、多くの要素が低いという特徴があります。特にストレス耐性と高揚感の追求が低い一方で、欠落感が比較的高い。つまり、未知がもたらす緊張感に耐えられないのに、何かを常に探し求めている、という葛藤を抱えているのです。それが、さまざまな社会心理学上の課題につながっている、と論文では分析しています。例えばこのクラスターは、学歴、収入とも低く、約半分がフルタイムの職に就いていないと回答しています。外向性や真面目さに欠けるという自己評価で、分からないことは避ける傾向も見られます。

このクラスター分析の結果、4つのタイプの分布は次の通りとなりました。比較的均等にいるんだなあ、という印象です。これはアメリカで行われた調査ですので、日本で行うと違った分布になるかも、なんて思ったりもしました。

ここまで、好奇心を研究した論文から、私が興味をもったポイントを抜粋してきました。特に4つのタイプは、面白かったです。私はおそらくひとつめのわくわくタイプだろう、などと自分のことを考えるのも面白いし、それぞれの特徴に当てはまる知人を思い浮かべるのも楽しいです。自分と異なるタイプの好奇心の発揮の仕方の説明も、納得しながら読み進めました。一方、自分と違う好奇心タイプのひとの、内面で起きている心理状態なんて考えたこともなかったので、論文に書かれていた解説はとても興味深かったです。だから、専門的な論文でも、楽しく読めたんでしょう。

DHBRの特集では、イノベーションや創造性をもたらす源のひとつとして、好奇心を位置づけていました。また、研究論文のほうでは、好奇心とウェルビーイングを関連づけ、ウェルビーイングに貢献する方向に今後の研究や実験をすすめるべき、と提言してます。
時代の次の一歩を照らすキーワードとして、イノベーション、創造性、そしてウェルビーイングが、ここ数年取りざたされています。そのおおもとになるのが「好奇心」なのですね。
例えば、運動能力であれば、瞬発力、持久力、柔軟性などの要素に分けてその人の特徴を計測し、それをもとに向いている種目やトレーニングメニューを判断します。同じように好奇心についても「好奇心がある、ない」という大ざっぱな評価ではなくて、より細かく理解したい。私も、世の中も、今そういう時期なんだろうと思いました。

(photograph by Harsh1.0)

<註>
*1 対象はそれぞれ、508人、403人、3000人。いずれもアメリカで行われた。
*2 DHBRの「好奇心の5つの類型」の方に詳細な説明があり、自己評価テストもついてました。類型名の日本語部分は、DHBRを参照しました。Social Curiosity は、DHBRでは「社会的好奇心」と訳されていましたが、こちらは変えました。

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篠田真貴子

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