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逃げているのか?追いかけてるのか?|日記

 朝5時に起きる。一階に降りて、コップ一杯の水を飲む。寝巻きから上下ジャージに着替え、玄関に腰を下ろして、靴紐を結ぶ。まだ強烈に眠いし、外も寒い。こんなときは、体がベルトコンベアーに乗って、自動的に動かされていると錯覚するように、玄関の外に出る。

そうして僕は走り始める。

「パパはなんでまいにち走ってるの?」
このまえ、毎日走りに行く僕に、息子が聞いてきた。

「体にいいからだよ。あと気持ちもいい。」
「え、何か追いかけてるの?」
「そうかもねぇ」と僕は答える。

そしてちょっとしてから
「いや、何かから逃げてるのかも。」
と付け加え、二人で笑う。

AM5時11分。2.5km地点を通過する。ようやく体が動き始める。膝関節は滑らかに駆動しはじめ、その動力に合わせるようにして僕は両腕を、少し体より後ろに交互に引くようにして、なるべく平行に前進することを試みる。僕は走る。

いろんなことが、頭の中に去来する。今日やらなきゃならないことや、昨日あった出来事。しっかり形になっているものもあれば、まだ形になっていないもの、すでにあいまいになってしまったものなどが、とめどなく僕の頭をなでていく。どれもそこまで強くはない。比較的やさしくきえてくれる。そうしているといつのまにか、あんなに冷たかった風が心地よくなってくる。

AM5時30分。折り返し地点の7km地点へと差し掛かる。
OKスーパーの前の大通りでUターンする。

7kmかけて獲得した自分の運動性をなるべく邪魔しないように、
またこの先の7kmもおなじように前進できるように、
僕は素敵な紙の真ん中に綺麗な折り目をつけるように
慎重なUターンを試みる。

「ぼくらは〜みんなで生きているぅ〜♫」

昨日風呂場で娘が歌っていた歌が思い出される。

「あかりちゃんあかりちゃん【で】はいらないのよ。こう。ぼくらは〜みんなぁ生きているぅ〜♫」

「えぇ〜あかりちゃんは【で】入れて歌いた〜い」

彼女はとても甘え上手でわがままでなにより自由だ。いろんな歌をちょっとずつアレンジして自分の歌いたいように歌う癖がある。底抜けの、天性の明るさみたいなものをもっている。

「いいんじゃない?【で】入れたほうがなんかいいもんね」

「そうなのよぉ〜ん、【で】あったほうがいいでしょ〜?」

僕らはみんなで生きている。たしかに【で】があったほうが、なにか人間の生に対する強い意志を感じた。また【で】が「みんな」という主語をより大きくさせて、人間ならず、生き物すべてを形容している言葉のように感じた。

AM5時45分。いつもよりペースが落ちていた。あと15分で3キロ走り、シャワーを浴びて、起きてくるみんなの朝ご飯を作らなければならない。今日はまだ残ってしまっているお餅を焼いて、きなこや醤油で食べればいいと考える。

そう、ぼくらはみんなで生きている。
追いかけているのか逃げているのかわからないけれど、
ぼくらは確実にみんなで生きていて、何かしらに向かって動いている。

(普段通り生きようじゃありませんか)

そんなふうに頭の中で呟いて、残り2.5kmの道のりを僕は食いしばりスパートする。

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