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始まりは30年前、産業ガスから牛糞由来のロケット燃料供給まで エア・ウォーター|宇宙を拓く 北海道のフロントランナー①

こんにちは!
SPACE COTAN株式会社広報チームです!

北海道スペースポート(HOSPO)は、航空宇宙産業が宇宙港の周りに集積する「宇宙版シリコンバレー」を作ることを目指していますが、昨今、新たな宇宙関連の設備ができたり、これまで宇宙とは異なる業界にいた企業さんが新たに宇宙産業に参画し、大樹町に進出するなど、徐々に産業集積の芽が育ちつつあります。

そんなHOSPOのプロジェクトを一緒に推進してくださる企業、非宇宙産業から宇宙に進出した企業の方々のストーリーをご紹介していくインタビューコーナー「宇宙を拓く 北海道のフロントランナー」をスタートしました!
宇宙産業に興味を持つあらゆる業界の皆さまの、これからのヒントになればと思います。

また、このコーナーは北海道放送(HBC)のWEB宇宙チャンネル「北海道から宇宙へ!」の協力のもと、企画運営を行なっています。
SPACE COTANのnoteでは協力企業を紹介する記事を、HBCの宇宙チャンネルでは協力企業のキーパーソンをインタビューした映像コンテンツをご視聴いただくことができます!

第1回で紹介するのは、エア・ウォーター株式会社です。
同社は、大樹町の牛の糞尿から取り出したメタンガスを液化してロケット燃料にする取り組みを進めていますが、実は宇宙開発に関わり始めたのは約30年も前から!
宇宙開発に関わるようになったきっかけ、HOSPOプロジェクトへの期待、牛糞由来のロケット燃料製造などについてエア・ウォーター株式会社北海道地域連携室リーダーの高橋宏史さんと地域環境システム開発センターの西川智大さんに、弊社COOの大出が聞き手となってお話を伺いました。

〈プロフィル〉
高橋 宏史(たかはし・ひろし)
1960年生まれ、北海道様似町出身。工学院大学卒業後、1884年に株式会社ほくさん(現エア・ウォーター株式会社)入社。高圧ガスプラント検査や酸素・窒素・LPガス充填工場建設などを担当。2008年の洞爺湖サミットで水素ステーション設置・運用責任者を務めた他、大樹町多目的航空公園(北海道スペースポート)でJAXA(宇宙航空研究開発機構)の液化水素エンジンの燃焼試験支援を担当した。2019年より現職。

エア・ウォーター北海道地域連携室リーダーの高橋さん

きっかけは世界最長の無重力実験施設への出資

大出:
エア・ウォーターが北海道で宇宙分野に関わるようになったきっかけを教えてください。

高橋:
1991年に空知管内の上砂川町の地下無重力実験センターに出資したことがきっかけです。
廃坑を活用し、当時としては世界最長の10秒間の無重力を生み出せる施設でした。
30数年前もから宇宙産業に携わり、人脈ノウハウを築いてきたことが、今につながっています。

地下無重力センターの模型(HBCニュースより)

大出:
そんなに昔から関わっていたのですね!
そこからHOSPOと関わるきっかけは何だったのでしょうか?

高橋:
「官需から民需へ」、「新しいロケット発射場を建設しよう」という流れの中で、道内の産学官で大樹町に宇宙センターを作ろうという機運が高まり、そこに参画したのが始まりです。
HOSPOが2021年4月に本格稼働し、SPACE COTANが設立される時も応援してきました。
HOSPOは新しいロケット発射場を、企業版ふるさと納税を財源につくるというとてもユニークな発想で整備を進めていますが、この制度はまだ新しく認知度が低かったこともあり初期はまだ様子見の会社さんも多かったと思います。
しかし、弊社は初期から企業版ふるさと納税の寄付も行い、HOSPOに支援が集まるきっかけを作ろうという気持ちでいました。

社業・高圧ガス供給から関わり拡大

高橋:
宇宙関連の試験で使う設備には全て高圧ガスが必要となるので、当然関連の許認可や有資格者も必要となります。
我々はこうした宇宙関連の試験や設備にガスを販売していました。
特に、民間ロケット会社の実験担当の方々と打ち合わせする中で、最初はガスを提供するだけだったのが、一緒に試験設備や機材を作るようになり、人的支援もするようになりました。
SPACE COTAN社に対しても立ち上げ準備段階から現在に至るまで、人材を派遣し、事業が軌道に載るよう支援しています。
元々の社業である産業ガスの供給や設備の相談から結びつきが広がり、係わる範囲が増えてきましたが、今後は設備や技術的なサポートをするだけではなく、北海道にゆかりのある企業として大樹町周辺に多くの航空宇宙関連企業が集積する未来を一緒に描いていきたいと思います。

酪農とエネルギーの知見→牛糞由来バイオ燃料の製造

大出:
牛の糞尿からロケット燃料を製造する取り組みについても教えてください。

〈プロフィル〉
西川 智大(にしかわ・ともひろ)
エア・ウォーター株式会社 地域環境システム開発センター
1994年生まれ、大阪府岸和田市出身。大阪府立大学(現:大阪公立大学)卒業後、2019年にエア・ウォーター株式会社に入社。水素発生装置等のガス精製装置の開発などに携わり、2021年より液化バイオメタン(LBM)を用いた地域サプライチェーン実証の取組に従事し、現在は帯広市に駐在。

液化バイオメタンの取り組みについて説明する西川さん

西川:
牛の糞尿から生じる未利用のバイオガスを原料に液化バイオメタンを製造、ロケット燃料にする取り組みを進めています。
原料は大樹町の酪農家2軒にご協力いただき、帯広市のプラントで精製しています。
元々、当社グループではバイオガスのコンサル事業も展開しており、酪農に精通していました。
さらに液化天然ガス(LNG)の卸売も手掛けており、エネルギー分野にも精通しています。
酪農家から未利用のバイオガスがあることを聞きつけ、エネルギーに変えられないかと検討し、この取り組みを始めました。

大出:
これまで未利用のガスはどのように処理していたのですか?

西川:
大気中に放散するか、メタンはCO2に比べると地球温暖化係数が高いのでCO2に変換して燃やすケースもあります。

大出:
そのまま放散すると環境に良くないので、それを燃料に変えて使う取り組みなのですね。
世界でもメタン燃料を使ってこれまでよりも環境に優しいロケットを作る動きがあります。
そのメタン燃料を地産地消できるのは素晴らしいですね。

西川:
今は液化メタンを製造している場所が本州にしかないので、北海道まで運ぶ必要があります。
輸送などのコストがあるので、地産地消という点でも環境に優しい取り組みです。

宇宙プロジェクトはシンプルに「すごい」

大出:
昨今、宇宙ビジネスが急激に成長する中で、新規事業として宇宙に取り組む企業が出てきていますが、かなり前から宇宙がエア・ウォーターのビジネスになっていたんですね。

高橋:
そうですね。
宇宙開発やビジネスの現場では、ロケットエンジンの燃焼に必要な酸化剤など、いろいろなガスが使われますが、特殊なものもあるので、今までの高圧ガス供給の経験で様々な引き合いをいただいていました。

大出:
入社されるときは宇宙のプロジェクトに関わると想像していましたか?

高橋:
全然想像していませんでした!
私が最初に大樹町の宇宙事業に関わったのは、2008年のJAXAの気球実験で、ヘリウムガスの供給や配管工事を行いました。
その後、超音速での液体水素の燃焼試験などがあり、当時は大樹町に3週間ぐらい泊まって、ずっと現場に入っていました。

大出:
高橋さんが思う、宇宙のプロジェクトの魅力は何でしょうか?

高橋:
大樹町で気球実験を初めて見ましたが、600〜700kgの機材を直径60mぐらいの気球にヘリウムガスを入れて成層圏へ放球するということは想像していなかったので、シンプルに「すごい・・・」と思いました。
また、燃焼試験で使う液体水素は、私も扱うのが初めてだったので本を読んで勉強しましたね。当時は、秋田県能代市のJAXAロケット実験場にも行って、設備を見せてもらいました。

北海道の宇宙産業は今が頑張り時

大出:
北海道で宇宙産業がさらに盛り上がり始めていますよね。
高橋さんは長らく関っていますが、昨今の状況をどう感じていますか?

高橋:
いろいろなことがホップ、ステップ、ジャンプで言うジャンプの直前に来ている。今が頑張り時だと思っています。
大樹町の民間ロケット会社のインターステラテクノロジズ社もサブオービタルロケットMOMOで、国内の民間単独初となる宇宙空間到達に成功しましたし、HOSPOも新たなロケット発射場の工事が始まっています。
民間にひらかれたアジア初のスペースポートになるので、広くみんなに使ってもらい、いろいろな実験や打上げを行ってもらうのが願いです。

大出(左)のインタビューに答える高橋さん

大出:
この先、エア・ウォーターさんとして宇宙のプロジェクトにどう関わりたいですか?
また、北海道全体がどうなっていってほしいでしょうか?

高橋:
弊社は、元々は高圧ガスの会社なので、燃料供給や設備工事などで関わりたいというのが基本です。
ただ、これからの宇宙は通信、農業、教育、環境など大きな広がりがある分野なので、何とか北海道、大樹町で花が咲いてほしいと思っています。

開かれた発射場PRで企業や研究機関誘致を

大出:
HOSPOへの期待を教えてください。

高橋:
一つは、とにかく早く発射場を完成させることです。
もう一つはユーザーとなるロケット会社の誘致です。
国だけではなく、民間を含めて誰もが利用できる発射場、スペースポートであるということがHOSPOの一番の特徴ですよね。
広くPRして、日本、世界、特にアジア圏の国々からどうやって誘致するかが大事だと思っています。
大樹町はスペースポートとしては非常に良い場所です。
将来的には誘致が進むと産業の広がりが出て、人工衛星の実験、組み立てる会社、通信会社、農業関連など、いろいろな企業や研究機関が集まることを期待しています。
こうした産業の広がりをみんなに認識してもらう取り組みを広く打ち出してほしいと思います。

大出:
世界中のロケット会社とコミュニケーションを取っていますが、北海道の持つ地理的優位性をとても理解してくれており、素晴らしい土地だと言われます。
食や観光の資源も豊かなので「ここで働きたい」と話してくれます。
他の発射場は砂漠のど真ん中だったりするので行きたくない、という声もよく聞きます。
そういった方々が拠点を移して世界中の人工衛星がHOSPOから打上がるようになれば、経済効果はすごく大きくなります。

エア・ウォーターさんにとって宇宙関連産業はどのような位置づけですか?

高橋:
実は、我々は農業や食品にも広く関わっているんですよ。
燃料やガスの供給、それに関する設備工事、農業の作物・飼育管理なども行なっています。
今後、人工衛星からのデータで収穫時期予測などができると思います。
その他にも十勝管内の更別村で宇宙食製造にも協力させてもらっています。
取り組みにもどんどん幅が広がればいいなと思っています。

HOSPOのyoutubeでも映像公開中!

HBCのWEB宇宙チャンネル「北海道から宇宙へ!」の映像コンテンツはHOSPOのyoutubeチャンネルからも見られます!

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