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輝きを探し求めて。(2000字のドラマ)

今日も、仕事は滞りなく 定時に終わった。

「お先に失礼します」

挨拶をして、友季子ゆきこは足早にロッカーへ向かう。

心の中で お気に入りの曲を口ずさみながら、
素早く制服から 私服に着替えて、髪を軽く整える。

ようやく友季子にとって、仕事を終えたあとの ささやかな楽しみが始まろうとしていた。

友季子の家は、職場から20分ほどのアパートだ。
このまま帰れば、自分の部屋で のんびりできる。

しかし 友季子は、バスで2駅先の カフェに行こうとしていた。

バスを降りて、パンプスのヒールを軽快に鳴らして歩く。

淡いブルーグレーのセットアップに身を包み、緩く束ねたロングヘアをなびかせる。

セットアップも、髪型も、参考にしているファッションインフルエンサーを真似たものだ。

はっと忘れ物に気付き、バッグのポーチから 香水のアドマイザーを取り出す。
しゅっと吹き掛け、ようやく準備が整った。



「いらっしゃいませ こんばんは。
あっ、友季子さん、お疲れ様です。」

店長がにこやかに挨拶する。

店内を見渡すと、友季子のお気に入りの、窓際の席が空いていて嬉しくなった。

案内されて席につく。
水を運んでくれた店員さんにお礼を言って、まずコーヒーを一杯注文した。

友季子は、手慣れた手つきで バッグから取り出したノートパソコンを起動させる。

運ばれたコーヒーを味わいながら、
SNSのアカウントをくまなくチェックし、それぞれのタイムラインを眺める。

一通りチェックを終えると、最新投稿の準備に取りかかり始めた。

「みんな、おつかれー。
デートの前に、カフェでまったり」


コーヒーカップに口を着けている姿を撮った写真と共に投稿する。

間もなく いつも親しくしている
けんと 真由美まゆみからコメントがつく。

「デート楽しんできてー」
「友季子、今日も服めちゃめちゃ似合ってるね!」

このあと、友季子にデートの予定はなかった。

今日だけに限ったことではない。

恋人もいないし、友だちと呼べる幼なじみや同級生もいない。

いつも一人で過ごす生活だ。



友季子が 大学卒業後、メーカーに勤務して二年目を迎えていた。

就職活動が思うように行かなかったことや、
その頃 時を同じくして 付き合っていた男性と別れたことが重なって、
友季子は 自分に自信が持てなくなっていた。

ある時、初対面の相手と話していた時に
つい、軽く話を盛ってしまったことがきっかけだった。

気づけば、ネット上の 友季子 は華やかな職種で 恋人もいて リア充な女性 として フィルター加工のようにキラキラ輝いて生きていた。



タイムラインを全てチェックして、
コメントや 返信を書き込んだ頃には
コーヒーも既に飲みきっていた。

晩御飯を食べようと カフェのメニューに目を向けた。
ふとスマホの通知が目に留まる。

埋もれていて見逃していた 賢、真由美とのグループLINEの通知だった。

「賢、今日飲みに行かない?」
「いいね!」
「あ、今インスタ見た。
友季子、今日デートだって」
「えー残念。
じゃあ二人で行くか。
気になってた店があるんだよね」


こんな話になっていたのか。
賢と真由美、二人で会うと書いてあった。
二人で呑んでるうちに いいムードになったりするのだろうか。
そんなことを思ったりもした。

「今気づいたー!
ごめん、また今度ね。
二人で楽しんできてー」

そうメッセージを打ってLINEを送信した。



食事を終えて、友季子は食後のカフェオレを飲みながら窓の外を眺めていた。

外の景色に友季子の姿が重なる。

着飾って、流行りのメイクをしている私は本当に輝いているんだろうか。

親しくなりかけている仲間、賢と真由美にも 
話を盛って偽っていた。

このままでいいんだろうか。

そんなことを考えていると、窓の外に見知った二人が立っていた。

賢と真由美が気づいて手を振る。

すぐに二人はカフェに入ってきた。

「友季子、どうしたの?」

「てか何でここにいるの?
デート早く終わったの?」

二人の言葉を俯きながら聞いて
友季子は答える。

「...違うの」

「そっか。
彼、予定入っちゃった?」

「違うんだよ...」

賢と真由美を見る友季子の目には涙が溢れていた。

「ごめん、私、私...嘘のかたまりなんだよ」

真由美は友季子を抱き締める。

「いい、いい。大丈夫。
何があったかは聞かないから。
話したくないことは話さなくてもいい。
賢も私も いつでも味方だよ」

賢は大きく頷いていた。

「誰だって言いたくないことくらいあるだろ?」

もしかしたら、二人は知っていたのだろうか。

「この3人同い年じゃん。
だからってわけじゃないけど、俺にとっては二人とも一番安心して話せる友だち だよ」

ごめん、と謝ることが精一杯で
友季子は涙をぼろぼろと溢した。

「賢と真由美が付き合っちゃったら、私寂しくなるな、って思ったのもある」

友季子が言うと、二人は顔を見合わせて笑った。

「え?私が?いやいや...
ここで正直に話すけど、私 結婚してる人と付き合ってるのよ。
そんなの、いちいち言わないじゃん?」

賢は笑いながら頷いた。

「いつだったか、真由美 ぽろっと言ってたよね。」

そうだったんだ。

とはいえ、真由美にだけ白状させてしまって申し訳ない気持ちにもなっていた。 

「ケーキ食べない?おごるよ。
食べながらゆっくり聞いて。」

賢も真由美も顔を見合わせて微笑んだ。

「じゃあ、ケーキの前に晩御飯もお願いね」

「じゃあ私もケーキの前に食べる!」

3人で顔を見合わせて笑った。

「今、メニュー持ってきますね。」

友季子を見て、微笑んだ店長に
初めて友季子も笑顔で返した。

☆☆☆

【最後に ご挨拶】

ここまでお読み下さり、ありがとうございます。
 
noteを少しお休みしていて 戻ってきた時に
この 「2000字のドラマ」企画を知りました。

これまで小説もどきのものを1つ書けただけなので、というのもあり
こうして完成まで1ヶ月ちょっとかかりました。

友季子、そして賢と真由美。

私がこれまで20数年間、インターネット世界で出会った人たちの中からヒントを得て、
造り出したキャラクターです。

どこにでも存在していそうな、そんな等身大で 「インターネットの世界」と日常のリアルな世界を行き来する人たちとしました。

だから、ドラマチックな展開も敢えて省きました。

今や当たり前に存在する インターネット。

自分を見失うことって、もしかしたら珍しいことではないのかもしれない。

ネットの画面越しに、そんな思いが昔も今も少なからずあります。

大好きな音楽とリンクする世界観にしてみました。
 
この音楽選びにも、実際のところかなり時間を要しました。
最終的に 私が洋楽を本格的に好きになったきっかけと言えるほど影響を受けたCyndi Lauperシンディ・ローパーに決定。

曲は私自身が、一番辛いときに助けられ、励まされた曲、Shineシャインです。

「あなたならきっと輝ける」
「そばにいるから」

そうしたCyndiからの言葉に 励まされる人 は 少なからずいるのではないかな。
 
そう思います。

Cyndi Lauper/Shine

Spotify


☆☆☆

#2000字のドラマ


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