宿泊をとりまく過去・現在・未来について今思うこと

東京の宿泊施設を辞めてから、早3ヶ月が経ってしまいました。
東南アジアを1ヶ月ちょっと旅して帰国して2週間の自主隔離生活、そしてそれが終わるタイミングでの緊急事態宣言。

先行きが不透明なまま時間だけが過ぎていき、宿泊業に戻りたいけど、戻れないかもしれない。そんなモヤモヤした気持ちで、気になるけど気にしすぎないようなんとか生きています。

自分の住んでいる神奈川県も緊急事態宣言が解除される見込みですが、今後どうするかや需要のあるなしは別として、旅をしながら考えてたことや、今思ってることなんかを雑多に書き綴っておこうかと思います。

本当は帰国後、日本の宿を回っていろんな人に会うことで、より考えを深めたいと思っていたのですが、こればっかりは仕方ない。

が、これだけは言いたい。

『コロナの馬鹿野郎』

というわけで、おおまかな内容は下記のようになっています。

・これまでの宿泊業界とその先にあると思っていた宿泊業の傾向
・自分が感じていた宿泊業の課題
・可視化された事業者と生活者の分断
・分断を埋める社会的な取り組みの例
・今、大事だと思っていること

これまでの宿泊業とその先にあると思ってたもの

(注:前提条件として、自分は一流ホテルやビジネスホテル、旅館はあまりわかっていません。共通するところはあるかもしれませんが、ゲストハウスやホステルに偏ってしまうと思います。)

宿泊施設は供給過多となり、飽和している中でもさらに増え続けていました。計画性があるところは新古を問わず優れた躯体(ハード面)をベースにコンセプトや高いデザイン性を持ち、逆に運営を考慮していない数字しかない投資物件は価格崩壊の要因となるなど、どこも単純な差別化や値下げでは舵取りが難しい状況となっていたと思います。

さらにドミノ倒し的に全国で宿泊税の導入が拡がるなど、客単価の低い宿泊施設にとっては、進むも地獄、退くも地獄といった様相を呈していました。

オリンピックを最後の回収期間として、多くの物件が売りに出ると思っていたら、それ以前から譲渡先を探しているといった話もちらほら聞くようになり、そんな矢先に、世界的な新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大が起きました。

まずはコロナ以前、自分が感じていたおおまかなトレンドについて触れていきたいと思います。この傾向はコロナによって一時的に止まるものの、大きくは変わらないと思っています。

課題としてのOTA依存からの脱却

日本での新型コロナウイルス感染拡大の危機感が高まっていく中で、とあるゲストハウスオーナーがOTAからではなく自社サイトから予約してほしいという旨のツイートをして炎上しました。

『OTAの人たちにだって家族がいるのに自分達のことだけ考えてる』
『OTAなんて何もしてくれないのに稼ぎすぎ』
といった否定派、肯定派両極において見当違いな反応が起きました。

宿泊施設はOTAにとして宿泊料金の8%〜15%程度のコミッション(集客手数料)を支払っています。経営者は自分達の施設やスタッフを守るために利益を最大化するのが目的ですし、自分のリーチできるお客様には直接予約してもらいたいに決まってるのです。

OTAで働く人の家族のことはOTAが責任を持つことです。仮に他社の従業員の家族まで考えてビジネスを行う優れた企業家がいたとして、それを称賛こそすれ、強要することではないでしょう。

一方で、OTAは宿泊施設がリーチできないところの集客をしてその対価を受け取っているので、何もしてないわけではありません。担当者によってはお願いすればいろいろな数字を出してくれるので、どのようにマーケティングに活用できるかというスタンスで付き合うべきだと思っています。

と、宿泊施設とOTAの関係性を明確にしておきたかったので、あえて脱線しましたが、宿泊施設からするとOTAのコミッションはバカにならないし、一方的な無償キャンセル依頼などがあることも確かです。

集客をOTAに頼らないというのは理想だが難しい、しかしOTA依存度は可能な限り下げておきたいというのが現実的な考えでしょう。
(※小規模な施設であれば使わないという選択肢もありますし、繁忙期だけOTAの販売在庫数を絞るなどの戦略もあります。)

ちなみにGoogleマイビジネス周りの整備は最低限行うべきことですし、Googleの動きは常に意識しておかないと駄目ですが、現状宿泊業界において大枠で考えるとOTAの代替手段でしかないので今回は触れません。

※〇〇車のほうが燃費がいいから乗り換えようみたいなものです。ただし、Googleが本気で動けばゲームのルールは変わります

では脱OTAのための手段はどのようなものがあるのか。

インバウンド・マーケティングやオウンドメディアを活用した集客へのシフト

2009年頃だったと思うのですが、HubSpotという会社(日本語ページができていました。)がインバウンド・マーケティングを提唱し、その後日本でもインフォバーンさんがオウンドメディアという言葉を認知させたり、WEB制作会社のLIGさんなんかはそれを体現するようにオウンドメディアで大きく飛躍しました。

インバウンド・マーケティングを簡単に説明すると、マスに対して広告を出すのではなく、有益な情報を自ら発信することでお客様から自分たちの会社やサービスを見つけてもらうことです。

つまりOTA上で地域から宿を選ぶでもなく、Googlemapから宿泊施設を探すでもなく、指名買いとして宿に足を運んでもらうための仕掛けづくりです。

今後、自社でメディアを持ったり、メディア化したりといったオウンドメディアの流れは宿泊業界でも加速するでしょう。

ただし、これらの施策はどうしても言語依存要素が高くなりがちなので、外国からの宿泊者を獲得したい施設での難度は一気に高くなりそうです。

そういう意味では、まず自らの施設が、どのようなお客様のニーズがあり、どのようなお客様を求めていて、どのような体験をしてもらうかといったUX(ユーザー体験)の見直しや、カスタマージャーニーマップなどを用いるデザイン思考的なアプローチを取り入れる必要もあるのかもしれません。(※日本を2週間かけて回る外国人を想定した時に、自社サイトから予約してもらえば良いって思ってることがどれだけハードルが高いか気づくと思います。)

一つの解としてのサブスクリプション型サービス

PCの小型化とモバイル端末や情報インフラが整備されたことで働き方や暮らし方が多様になり、世界的にアドレスホッパーやデジタルノマドと言われる新たなライフスタイルの人たちが増えました。

そのような時代背景をもとに生まれたのがHafhHostelLifeADDressなどのサブスクリプション型サービスでしょう。

これらのサービスが紹介される時、利用者側の視点で語られることが多いように思いますが、実は宿泊施設側にとってもOTAの依存度を下げ、稼働率を底上げし、行動様式の異なる層を獲得することが期待できるなど、ポテンシャルは高いと思っています。

サービス提供側としてはブランディングを損なわないようにどれだけ魅力的な施設を確保できるかが生命線となりますので、審査基準を満たしている必要はあるでしょうが、マッチするなら検討すべきサービスなのではないでしょうか。

増えるアジア人旅行者やムスリムに最適化する

久しぶりに旅らしい旅のスタイルで、17年ぶりのに訪れたタイから、マレーシア、シンガポール、インドネシアと回って来ましたが、肌感覚で経済発展と生活水準の向上を感じました。(2018のミャンマーは別。)

経済的にはまだまだ欧米人のほうが日本に来やすいとは思いますが、地理的にいえばアジア人はもっと気楽に、頻繁に来れるポテンシャルがあります。
日本人だって5連休でヨーロッパ行く人はそれほどいないと思いますが、韓国やタイあたりだったら行きやすいのと似てますよね。

なかでもムスリム対応できているところはまだまだ少ないと思いますし、お祈りスペースの確保や方角の表記、ハラル対応などを行い適切にアナウンスできれば先行者利益は少なくないと思います。

求められる能力が多様化している 

競争が激化する宿泊業界での求められる能力が多様化しつつあるのではないかという印象があります。

環境や時代が変わっているので、求められる能力が変わるのは自然なことですが、言語能力や接客能力は最低限として、それ以外に情報発信力や企画力、キュレーションやファシリテーション、マーケティングなどの能力が求められるよう(またはあったほうが有利)になってきているように感じます。

前述したようにオウンドメディアやコンテンツマーケティングという10年くらい前にWeb業界で起きたような流れがなんとなく宿泊業界にも来ていて、それらをするためのメンバーが求められだしているのかなと。

ハードル高く聞こえるかもしれませんが、スタッフが全員楽しそうにtwitterいているだけでもブランディングとしては成功していると思います。

その一方で、旅先ではスタッフのホスピタリティの重要性を再認識したこともあわせて書いておきます。

可視化された事業者と生活者の分断

自分は観光地に住んでいるのですが、雑誌やテレビでも特集が組まれ、ここ数年ハイシーズンになると観光客が殺到し、ローカル電車の駅には入場制限が起き、通勤通学の地元民が乗降できないなどオーバーツーリズムが地域の問題となっていました。

観光地において飲食店の場合は地元の人も利用するでしょうが、宿泊施設となると基本的には外から人を呼び込むための施設です。
観光客が増えれば増えるほど潤う事業者がいる一方で、住民の生活は不便になったり、ゴミが放置されたり、騒音の問題といった苦情を見聞きするようになりました。

緊急事態宣言で観光客がいなくなった時、地域のFBグループに地元の人が静かでいいという書き込みをしたところ、事業者は苦しんでるのに何事だ!みたいな論争がおきました。

ここ数年感じていた観光地における事業者と生活者の分断が可視化された瞬間でした。

分断を埋める社会的な取り組みの例

そんな中で、今後の方向性のヒントになるんじゃないかという取り組みを見ました。

Social Good 200

大阪にあるSEKAI HOTELさん、泊まったことはないのですが(3月に行くつもりだった)、年間365泊ホテルやホステルに宿泊しているというReluxの受田さん(@appsuica17)が、数年前にとあるイベントでスライドで紹介していたことで存在を知りました。

自分はその頃、地元の人に宿泊施設として認知されていないことに課題意識を持ち、お昼休憩をかねて近隣の挨拶まわりを徹底していたところでしたので、一つ上のレイヤーで街を取り込むという構造になっているところに感動したものです。

そんなSEKAI HOTELさんですが、greenzの記事で紹介されていたSOCIAL GOOD 200という取り組みがまた素晴らしいなと。

具体的には宿泊費のうちから200円を地域の社会問題解決のために使うというものなのですが、宿泊税と似てはいるものの、こちらは顔の見えるお金の使い方であり、日頃から街を巻き込んでやっている施設がやるとなれば、その効果は桁違いのはずです。

『観光客と地域をつなぐ』とか結構使い古されたフレーズですが、すごい難しいことだと思うんですよね。
(※ EMBLEMさんはうまくやられている印象を持っています。)

ただのブランディングではない、街に貢献するという『覚悟と意志』を感じました。

UNPLAN OASIS

東京の神楽坂と新宿にあるUNPLANさんは『コロナの影響により生活が困難になってしまっている方々に、無償で宿泊と朝食を提供するサービス』というUNPLAN OASISという取り組みを始めました。

オペレーションも負担もバカにならないので、かなり勇気のいる決断だったと思います。

なぜこの取り組みが素晴らしいと思ったかというと下記のような点です。

1. 社会問題を解決する手段である
2. 未来に繋がる一生の信頼関係を築ける可能性がある
3. スタッフのモチベーションを維持できる

このような活動は手放しで称賛したいですね。

 『地域における宿泊施設の社会性』と『施設と人との信頼関係』が重要になってくると思う

星野リゾートを手がける星野佳路さんがマイクロツーリズム(地元での観光・旅行)を提唱していますが、これには少し物足りなさを感じています。
※決してアンチではありません。

海外からの旅行者が戻ってくるのに、ある程度時間が必要なことは同意します。しかし、例えば神奈川だとご近所の東京から多くの人がやってきますが、前述したような分断はすでに起きています。

地域でコロナ感染がぶり返す可能性がある中、宿泊施設に問われるのは、宿泊者だけではなく、『地域における宿泊施設の社会性』と、安心感を与えられる『施設と人との信頼関係』なんじゃないかと思うんですよね。
宿泊するほうも、話題になって賑わっているようなところに行くよりも、安心感のあるところ、つまり物理的距離ではなく、心理的距離によって足を運ぶ場所を決めるようになるんじゃないかと。

7. さいごに

自分はボードゲームが好きだと以前noteで書いたのですが、限られた資源や手札で勝ち筋を探すといった点で、物事をゲーム的な発想で考えていたりします。

今の手札で何ができるか?
欲しい手札は何か?

現場至上主義でありながら、手札を持っていない自分が書くのもおこがましいですが、リードしてそうな手札の異なるプレイヤーの真似をするのではなく、自らの手札(リソース)をよく見て、何ができるのか?どんな手札があれば次の一手が打てるのか?を考えてはどうかと思うのです。

今後、細分化していくであろう宿泊施設において今、宿の存在意義が問われています。どうか、素敵な宿が残りますように。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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ばしょう(@hostelmanager_b)でした。




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