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「合意」はとても大切です。

私が本州日本海側唯一の政令指定都市である街に引っ越して来たのは2010年の春のことでした。
元々両親の出身地であり、そこに「終の住処」を構えた両親との関係を考えて、その街に本社を置く中堅食品メーカーに転職したのは1999年のことだったのですけれどね、初任地は「大阪」でして、その後は滋賀県は琵琶湖大橋の袂の街「守山」で8年を過ごすことになります。
そして本来の希望地である街に呼ばれたのが、入社後10年を経過した2010年だったワケです。

今住んでいる町内は、企業転勤にありがちな「来週からあっちね、よろしく!」みたいな「転勤決まって大騒ぎ」の中で、2泊3日の家探しでヤッツケで決めた物件があった場所なのですよね。
家族5人と犬と猫がそれぞれ一匹ずついて、それが何とかおさまる物件なんて、そう多くないワケで、候補物件が限られる中で選ぶ余地もなく決めた…というのが正直なところだったのです。
まさかその地域が「大きな問題」を抱えているなんて、その2泊3日で知る由もなく…。

引越し早々に地域の方が「自治会費の納入をお願いします」ってやって来たのですよ。
一世帯半期で2,000円、年間4,000円の自治会費は決して高くはない範囲だと思います…が、地域の違和感に気が付いたのは、その後まもなくのことです。
実はこの地域、自治会が同じエリアに2つあって、そんなこと知らない私は会費を集金に来た (仮称) 自治会Aに会費を納付した都合、Aの会員になってしまっていたのです。
そして同じエリアをカバーする (仮称) 自治会Bが存在していて、同じ地域にありながら、ゴミ集積所も別、子ども会も別、祭りも別…という二重統治が行われていたのです。

いやぁ、驚きでした。
地域の生活のために存在する自治組織がその昔、どんな理由で分裂したのか…そこには分裂するに至る理由があったのは間違いないのでしょう。
ただ…その二重統治の弊害は、事情を知らない「素人住人」である私の目にも明らかで、特に可愛そうだったのは子どもたちでした。
同じ地域に住む仲良しの友だちが、別の自治会に所属する大人の都合ゆえに、通学班も祭りも別にされる…って、あり得ないでしょう?

その二重統治されていた地域自治会が統一されたのは、今から10年ほど前のことです。
ケンカ別れのふたつの組織をひとつに統一するのは、それは一筋縄にはいかない作業だったのです…アパートなどの賃貸物件だけではなく、土地や建物を買ってここに住む権利を持つ人たちがいるワケですからね、「イヤなら出て行け!」は通らないのですよ。

何しろ二重統治の弊害…子どもたちのことや、自治会の睨み合いから降雪時の除雪作業が滞ること、ゴミステーションや街路灯の管理など、問題の解決のために協働が必要であることを粘り強く説得する「正攻法」以外に方法はないのです。
もしも数の理論で押し切ってしまえば、反対に回った人の立場は無くなってしまいます。
そこに住む権利がありながら住めなくしてしまうようなことが起きてはいけないから。

こうして数年を掛けて統一された自治会は、相も変わらず保守的で進歩に後ろ向きなのですよ。
もう二度と分裂はゴメン…だからこそ、全会一致は必須なのです。

地域というエリアで括られたものをベースにする組織は、目的を明確にした組織とは成り立ちが異なるのですよね。
どういう理由でこのエリアに住むのかは、人によって違うのです…先祖代々この地の人だったり、仕事の都合でここに住んでいる人だったり、気に入った物件があったからかもしれないし、その他イロイロです。
だから、考え方もイロイロで、意思の統一も難しくなるのですよ。
その中で、住民や会員の権利は尊重されなければならない…とした時、何かひとつの改革を実行するのに、全会一致にどれだけの労力を必要とするかということになるワケですよ。

自治会やPTAのような組織は、絶対に分裂するようなことがあってはならない…というのは、分裂した地域を経験した私の実感です。
どんなに非効率で時代遅れな方法であろうとも、組織の分断を回避することは、地域の治安を守る意味で大きな意味を持つのだと思います。

Autistic な私は、その他者視点の弱さから自己中心的な思考に陥りやすい部分がある…という自覚があります。
一方で私は、自治会の統一活動から自治会活動に携わるようになり、理論的な正しさを掲げて行動するだけでは、それがどんなに素晴らしい活動でも「ついてこられない人」との距離が開き、意思疎通が難しくなることを肌で感じたのです。

「合意」はね、単純で簡単な作業であるほどに、非効率で首を傾げる作業であるほどに、念入りに確認しなければならないのだと思います。
単純で簡単であるのに非効率を続けているのは、変更への合意が難しいからである可能性が高い。
ここを蔑ろにしてはいけない…と、私は私の経験から、そんなことを思うのです。

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