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Episode 534 制動力が重要です。

1970年生まれの私が小学校低学年の頃、「スーパーカー・ブーム」という社会現象があったのですよ。
ランボルギーニ・カウンタックフェラーリ512BBポルシェ911ロータス・ヨーロッパランチア・ストラトス…あたり、これらの名前に「ピン!」ときたらその世代です。
ここで男女差の話をする気はありませんが、明確に男女を分けることが社会通念として普通だった頃の出来事ですからね、当時の男の子には野球とモータースポーツが必須の知識だったのです…少なくても私の身の回りではね。
池沢さとし氏の『サーキットの狼』から始まり、次原隆二氏の『よろしくメカドック』、しげの秀一氏の『バリバリ伝説』からの『頭文字D』と、学生時代から社会に出るまでの間で、マンガを中心にするモータースポーツを題材としたエンターテイメントには事欠かなかったのです。
その中で、自ずとメカやテクニックについての知識を蓄えていったように思います。

先日のnote記事でも触れたのですが、私たちは幼い頃からマンガやアニメーションに親しんだ最初の世代で、子どもの娯楽であったマンガ・アニメが私たちと一緒に成長して、青年や大人も楽しめるエンターテイメントの分野になったのだと思うのです。
マンガやアニメーションが青年でも楽しめるようになる方法はいろいろとあるのでしょうが、「リアリティ」というものも、その方法のひとつかなぁ…と、私は思います。
ことスポーツが題材となれば、超次元SFファンタジーに振るか、スーパーリアルに振るかの二択になりやすいでしょうしね。

モータースポーツで基本となる技術の最大の柱は、コーナーを制する能力…つまり曲がる技術なのだろうと思います。
「スローイン・ファストアウト(Slow-in Fast-out)」は、その基本中の基本とされるもの…簡単に言ってしまえば、「コーナー手前でしっかり減速して、曲がり始めから加速する」というコーナリング技術のことです。
オーバースピードでコーナーに突入しても、曲がり切れずにコースアウトするだけ…それはレースの世界では命取りになることですし、公道でこんな話になれば大惨事になってしまうワケです。
物理的にタイヤのグリップ能力を超えて曲がることは出来ない、曲がり切れる能力ギリギリの速度でコーナーに進入する、そのライン取りや技術が重要になる…ということですね。

私が子ども時代に経験した「スーパーカー・ブーム」のころは、クルマのパワーと最高速度ばかりがクローズアップされていました。
ザ・スーパーカーであるカウンタックのスペックは 5.2L V12 DOHCエンジンを搭載し455㎰(馬力)で、最高速度300km/h という触れ込みだったワケでして、当にスーパーだったのですよ。
でも、実際にこの能力が使い切れるのか…と問われれば、殆どムリとしか思えないワケですよ。
その最高速度まで到達できる環境…そんなもの、日本に数個しかない国際規格のサーキットでも怪しいのではないかと思うのです。

時代は進み、藤原拓海がトヨタの旧車 AE-86型トレノを操る『頭文字D』では、ポンコツと称される「ハチロク」で、パワーに勝る新型のスポーツカーを次々と撃破するストーリーが展開されるワケです。
その話の肝こそが、限界ギリギリのコーナーワーク…ということです。

私は以前に自分が経験した「止まらない!」を記事にしたことがあります。

ここ最近、発達障害の凸部分…「得意を生かして生活しよう」ということについて考えていました。
私には、その「得意を生かして」の結果、落とし穴にはまって休職に追い込まれた経験があるのです。
そして思うのです。
「得意を生かして生活しよう」には、キチンと止まれる制動力があってはじめて語れる話なのだと。

だいたいにして、啓発活動の拠り所は、自らの経験に基づくライフハックである場合が多いですからね。
ライフハックとは、当事者が自ら編み出した「上手くいく方法」であることを理解しておかないといけないと、私は思うのです。
だから誰でもそれで上手くいくワケではない…ということです。

あなたの能力や環境と、
私の能力や環境は、違う。
自己啓発をするならば、ここを理解しないといけない…私はそう思います。
ポジティブな話をすることで刺激を与えること自体は良いことだと思います。
でも、だからあなたはできるにはならない。
これ、お話する側が弁えないとならない部分ですよね。

細田守監督のアニメーション映画「時をかける少女」で描かれる、下り坂の途中で自転車のブレーキが壊れる、目の前に遮断機の下りた踏切、あの息を飲む「止まれない恐怖」を味わってほしくないから…。

スーパーカーは要らない、必要なのは私を確実に止めるだけの制動力。
これが一番大事だと、私は思うのです。

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