手口兄妹の冒険 vol.18

【承前】

「クルマヤせんせえ、それはどういうことです?」
 タマガサが眉間にシワを寄せて尋ねる。白衣の男、クルマヤはふむ、と顎を掻いてから口を開いた。
「つまり、例えばだね、私と君とは別の生き物なわけだ」
「ええ」
「だから、私の考えは君にはわからないし、君の考えは私にはわからない、そうだろ?」
「そう、ですね」
 ゆっくりと語られるクルマヤの言葉をタマガサは一つ一つ飲み込みながら聞いていく。クルマヤは試験管の液体を軽く振りながら言葉を続ける。中で揺れるのは青黒い液体。液体を透かして手術台の上の男に目をやる。
「あいつの血液だ。変わった色をしているだろ」
「そう、ですね」
「こいつの中にはいくらかの小さな……生き物のようなものが含まれていてね」
「生き物?」
 タマガサが眉を上げる。
「のようなものさ。むしろ機械というか、残滓というかそういったものが混ざりあったものと言った方が近いかもしれないがね」
「それが、なんなんですか」
「こいつの面白いところはね、いくらかに分けても一つの意識……のようなものを共有しているようなんだよ」
 そう言うとクルマヤは試験管を新たに一つ取り出すと、青黒い液体を注ぎ分けた。
「持っていたまえ」
「はあ」
 おっかなびっくりでタマガサは試験管をつまんで持つ。クルマヤは机の端から二本の針状の電極を取り出すと、自分の持つ試験管に差し込む。
「見ていなよ」
 言いながら電極にケーブルで繋がった装置のツマミをひねる。バチバチと音をたてて青黒い血液が沸騰する。
「え?」
 タマガサが驚きの声を上げた。沸騰とは別に青黒の液体が蠢いているように見えた。
「言っただろう。生き物のようなものだって。それだけじゃない、そっちを見たまえ」
 クルマヤの言葉にタマガサは自分の手の中の試験管に目を落とす。
「なんだこれは!」
 試験管の中の青黒い液体は電撃に苦しむように蠢いている。なにも刺激を与えられていないのにもかかわらずである!
「分けて離してもこいつは同じ個体なんだ」
 クルマヤはにっこりと微笑んで言葉を続ける。。
「考えてみたまえよ、こいつが体内に入ったらどうなるか」
「どうなる、ってんですか?」
「わかってるんじゃないのかい?」
 クルマヤの言葉にタマガサはならず者たちの動きを思い出す。不気味なほど統率の取れた動き。手の中で踊るおぞましい青黒の液体に、唾を飲みこんだ。
「一つの生き物のようにラグなく連携できるかもしれないねえ」
 

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