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マッドパーティードブキュア 204

 テツノは暗闇の中に存在していた。実体のない状態にはもうそろそろ慣れてきていたけれども、今いる暗闇はどうにも居心地が悪く感じた。自分自身の姿が見えないだけではなくて、自分自身の存在そのものが闇に飲み込まれて掻き消えてしまいそうな気がする。
 そっと、あたりの気配を探る。暗闇は仲間たちの気配さえも覆い隠してしまっている。
「あれ?」
 そこで、初めて気がついた。再び、あたり探る。やはり、いない。
「メンチ?」
 囁き声は闇の中に染み込んで消えた。返事はない。メンチの気配も現れない。暗闇の中で見えなくなっているわけではない。あるはずの気配がない。暗闇の中でぎらぎらと輝いていた、あの斧もない。
「ねえ、みんな。メンチはどこに行ったの?」
 少し強い声で、呼び掛けてみる。
「え? その声はテツノさんでやすか?」
 ズウラの声が聞こえる。
「どうにも、こんなに暗くては、誰がいるのかなんて...…」
「メンチ? いるなら返事しな」
 影の男があたりを見渡す気配がする。マラキイが荒々しい声で尋ねる。テツノの声よりは広くあたりに届く。けれども、答えはない。
「いないねえ」
 老婆が呟く。
「メンチ?」
 女神が改めて呼びかける。やはり、返事はない。
 空間に座標を持たないテツノの心臓の脈動が高く大きくなる。
「まさか、はぐれたの?」
「さっきまで、先頭を、あるいていたのですよね?」
「ああ、そのはずだぜ」
 かすかなセエジの声に、マラキイが頷く。
「そもそも、ここはどこだ?」
 マラキイの言葉に一行はあたりを見渡す。辺りには目に染みるような暗闇がどこまでも広がっている。何も見えない。何も見えないそこで一行は立ち止まっていた。
 どれほどそうしていたのかわからない。暗闇の中を歩いていた時間の記憶と現在は連続していないように思える。その間は真っ暗な闇で塗りつぶされている。
「メンチ、どこ?」
 叫び出しそうな、心中を抑えて、テツノは呼び掛ける。

【つづく】

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