手口兄妹の冒険vol.22

【承前】

「どういうことですか? 兄ィ」
「兄ィはやめろ」
 あと前向け、とタマガサは首を傾げるノグラの頭をはたいた。少し考えてから口を開く。クルマヤの言葉がよぎる。考えをノグラに伝えておくのは有効なことに思えた。それは自分たちを曲げることだろうか。
「だからよ。あー」
 それでもタマガサは言葉を続ける。ああいった類の敵を相手取るには考えの共有は必要に思える
「あいつらの強みってのはよ、なんでも拾うことなんだ」
「そうっすよね。廃棄屑会なんていうくらいですから」
 ノグラが相槌を打つ。
「あいつらはなんでも使う。ガラクタから胡散臭い薬まで」
「節操のないやつらっすよね」
「ああ、だからそれが恐ろしいんだ。あいつらはなんでも躊躇わずに使いやがる」
「だったら、俺たちも……」
「あほたれ。そうしちまったら何の意味もねえんだよ」
 タマガサはもう一度頭をはたいた。ため息をついて漏らす。
「てめえ親父の話ちっとも聞いていねえんだな」
「聞いてますよ。でも」
「俺らはあんな邪道どもとは違う」
 ごん、とタマガサは拳でノグラの肩を叩いた。
「俺たちは俺たちの身体で戦う。それで勝ち取るから俺たちは縄張りをきっちり締めれるってもんだ。そうだろ」
「はい」
「俺らの姿勢を見て助太刀してくれるってんならことわりゃしねえよ。でも、そいつがいねえと勝てねえってイモ引いて、どうか助けて下せえなんて頭下げんのは、ちげえだろうよ」
「へえ」
「そんな節操のないことをしたら俺らはあいつらと同類になっちまう。それじゃあ勝っても仕方がねえ。それじゃあ、誰も信頼なんかしてくれやしない。なんの意味もねえ」
 タマガサの言葉にノグラは黙って頷く。そうだ、と思い出す。タマガサの下についたの日のことを。露店の謎肉をくすねようとして見回りにぶちのめされたあの日。
 ちらりと振り返ってタマガサの手を見る。胡坐の膝に置かれた手は固く握られている。あの日よりもずっと硬くて重たい拳。
 ノグラは大八車を握る自分の手に目線を落とした。タマガサのものほどではないけれども、自身の拳もしっかりと鍛え上げられている。日々岩やら鉄塊やらを殴り続けて、ぺったんこになった拳。この拳を正しく使えさえすれば……
「待て」
 ノグラの思考をタマガサの言葉が遮った。考えるより先に足が止まる。待ち合わせの場所まではもう少し距離がある。
「なんですか」
「妙だな」
 タマガサは鼻をくんとならすと、顔をしかめて呟いた。

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