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マッドパーティードブキュア 208

 なにがあったのか。頭の中で、思考のあらしが吹き荒れる。最善の想像から、最悪の想像まで。
「メンチ」
 もう一度呼びかける。返事はない。反応したようにも感じられない。想像の天秤は最悪の極へと傾く。
「そんな、そんな」
「どうしたでやすか?」
 テツノのただならぬ様子を感じ取ったのか、ズウラが声をかける。
 テツノは混乱しながらも答える。
「この中に、メンチがいる」
 自分で言って、即座に首を振る。否定する。そんなはずはない。そんなことあるはずがない。そんなことになったら、そんなことがあるとするなら。
「メンチ」
 メンチがいなくなってしまうじゃあないか。テツノはその先の言葉を飲み込む。
「なるほど。セエジさん、なにかわかるでやすか?」
「この暗闇の中に、メンチさんがいるのですね?」
 ズウラの呼びかけを受けて、セエジはテツノに尋ねる。
「うん、多分、だけど、いる」
 とぎれとぎれの囁き声で、テツノは答える。
「そうですか」
 セエジはそれだけ言って、黙り込む。何かを考えている様子だ。
「どうするんだよ」
 暗闇は今は動きを止めている。こちらの様子をうかがい、隙を狙っているのかもしれない。
「静かに……テツノさん」
「なに」
「できるだけ、慎重に、そこの暗闇を探れますか」
「ああ」
 どちらにしろ、そのつもりだった。そこにメンチがいる可能性があるのなら、そのままにはしておけない。
 それがどのような状態だったとしても。
 そっとテツノは自身の感覚を伸ばす。ゆっくりと薄く。反応されないような速度と濃度で。やはり知っている温もり、熱さ。どきんと胸が高鳴る。わずかに濃度が上がる。
「あ」
 慌てて領域をひっこめる。暗闇がこちらに気が付いたのがわかった。テツノを掴もうと暗闇がうねる。後ろに下がり、暗闇の領域から逃れる。
 下がり際、ぎらりと何かが闇に輝くのが見えた。あれは、あの赤錆色の輝きは。疑惑は確信に変わる。
「メンチ、そこにいるんだね」

【つづく】

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