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マッドパーティードブキュア 206

「戻れなくても、やらないといけないんだよ」
 テツノは反駁する。探すことで発生しうるどんなリスクだって、それをしないことで起こるかもしれない出来事に比べれば遥かにましだ。すくなくとも、テツノにはそう思えた。
「この暗闇は、ただの暗闇では、ありません」
 セエジの声が途切れながら続く。
「『ドブヶ丘の心臓』、がもたらす、濃い闇です。こんな、ところで存在を薄くしてしまえば、たちまちのうちに、霧散してしまいます」
「それは、でも、メンチも同じだろ」
「いいえ」
 きっぱりと、セエジは言った。
「メンチさんは、あの斧を、もっていたでしょう?」
「……持っていたけれども、それがどうしたんだよ」
 戸惑うテツノに、セエジは答える。
「でしたら、大丈夫です」
「どういうこと?」
「気がついていませんでしたか? 途中から、あの斧が僕たちを導いていたということに」
 言われて、思い出す。最初はマラキイの持つ松明が先導していたはずだった。けれども、確かに記憶の暗がりの中で、一行を先導していたのは、メンチだった。斧を掲げたメンチが、先頭を歩き、道を選んでいた。
「斧は混沌を、拓くものです。それが女神の力、を得たならばなおのこと、暗闇に対する抵抗になるでしょう」
 セエジの声から流れ出る言葉たちは難しくて、テツノには意味がよくわからない。あの斧がメンチを守ると言っているのだろうということだけがわかる。
「本当なんだろうな」
「僕の計算が正しければ」
 その声は弱々しい声だけれども、なぜだか信用してしまう声だった。
「本来は僕が何とかする予定だったのですが、使う予定のない黄金律鉄塊を使用してしまいましたから」
 足音が聞こえた。軽い足音だった。
「立てるのかい」
 老婆が尋ねる。どうやら、セエジが背中から降りたらしい。セエジが奥の方へゆっくり歩く気配を感じる。闇のより濃い方向へ歩いていく。
「ええ、どうやら大丈夫なようです」
 セエジの声が言った。

【つづく】

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