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マッドパーティードブキュア 211

「なんだ? お前は」
 メンチは言葉を発した獣から視線を外さずに尋ねた。
「お前らが知る必要はないさ」
 獣は答える。人語に適さない声帯から発せられる声。聞きづらくはあるが、なんとか聞き取れる。獣はなおも話し続ける。
「お前たちがこの洞窟で手に入れた、それを渡しな。そうすれば命まではとらない、見逃してやる」
「嫌だ、と言ったら?」
「お前たちをぶちころがして、その死骸から奪い取るだけさ」
 獣は獰猛に笑った。
「そうか」
 メンチは短く答える。その後ろから、テツノは獣たちを一瞥した。小さまざまな獣たち。どの獣も鋭い爪や牙、触手を備えていて、一匹を相手にするのさえ苦戦しそうだ。加えて、数も多い。一匹や二匹は相手にできても、束になってかかってきたら無傷では済まないだろう。獣たちが、やみくもに飛び掛かってくることも、争い合うこともしていないところを見ると、何者かに制御されているのだろう。
 例えば、いま獣に言葉をしゃべらせている何者かに。
 マラキイ、ズウラ、老婆が身構えるのを感じた。
「女神さん……ズウラ。少し下がりましょう」
 小さな声で呼びかける。いざ乱戦となったら覆い隠すつもりだ。そうすれば多少は争いに巻き込まれる可能性は少なくなるだろう。
「いや」
 メンチが軽く振り返って首を振り、低い声で言う。
「お前らはまとめて下がってて」
「あ? 何言ってんだ」
 マラキイが怪訝な顔をした。
「あたしがやる。できるだろう……うん」
 メンチの答えの後半は虚空に向かって発せられた言葉で、頷きも何もない空間に向かって向けられていた。
 マラキイが首を傾げる。
 メンチは気にせず斧を掲げる。
「やろうってのかい?」
 獣が獰猛に笑う。包囲の輪が縮まる。
「やあ!」
 裂帛の気合とともに、メンチが斧を振り下ろす。
 その瞬間、大地を闇が通り抜けた。無為の目の痛い虚無。
「「きゃわん!」」
 獣たちが怯え声をあげ、たちまち四方八方へ駆け出した。
 
【つづく】

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