見出し画像

マッドパーティードブキュア 227

 ぞわりと、体中の毛が逆立つ。体液が冷たく沸騰する。
「何だテメエは!」
 潜んでいたことを忘れ、飛び退り、叫ぶ。
「なんだい、いきなり、元気だねえ」
 声が再び聞こえる。緊張したり、警戒したりした様子の欠片もない柔らかな声だった。
 そこまで聞いて、ようやく声の主の姿をみとめた。
「誰だ? おまえ……あなたは」
 毒気を抜かれ、さっきよりは随分とおとなしい声がメンチの口から漏れ落ちる。
 声の主は一人の女性だった。年齢は中年を過ぎ、高齢に差し掛かった頃に見える。全体的に楕円形のシルエット。紫色の髪の毛にはパンチパーマが当てられている。
 その顔に浮かんでいるのは、
無害そうな呆れ顔。こめかみに貼られた白い小さな湿布が目を引く。
「あーもしかして、お客さんかね。あらあら、なんか出すもんあったかしら」
 女性はのんきな口調で棲家の方へ目線をやった。
「鉋突組か?」
 かつてこの辺りを仕切っていた組織の名だ。関係者かどうかはわからない。だが反応を探るために口に出してみる。少しだけ間があった。
「ああ、前にそんな組もいたわね。あ、そうか、あなたたちその組の関係者なのね、きっと。なんだ、そういうことか」
「違う」
 勝手に納得しようとする女性に、メンチは制止の声をかける。隣でズウラが何かを言いたそうにしているのが目に入る。
「なんだよ」
「あっしらはたまたまここを通りかかっただけなんでやすけど」
 メンチに促されて、ズウラがようやく口を挟んだ。
「へえ、こんな辺鄙なところをね」
「ええ、たまたまなんでやすけど」
 女性の疑り深そうな平然と受け流して、ズウラは続ける。
「あのお家はお姉さんのお宅でやすか?」
「やあねえ、お姉さんなんて」
「いやいや、えらくおしゃんなお宅だと思って見てやしてね」
「もう、褒めてもなんにも出ないわよ」
 言葉とは裏腹に、満更でもなさそうな様子で女性が答える。
「そこまで言うなら、折角だし、お茶でも飲んでいく?」

【つづく】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?