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マッドパーティードブキュア 183

 混沌の闇のかすかな隙間を縫って、うねうねと曲がりくねった道を歩きながら、ズウラは先を歩くマラキイが立ち止まったのに気がついた。
「どうしたでやすか?」
「なんだ?」
 いぶかしげな顔をして後方の空を睨む。気がつくとセエジと老婆も立ち止まって首を傾げている。
「聞こえないか?」
「え?」
 問い返したところで、気がつく。空の高いところから音が聞こえてきているということに。高速で空を切り裂く飛翔音。上空の混沌の闇をかき分けて何かが近づいてくる。
 ズウラは身構える。テツノと女神に目をやる。少し離れた位置、戦闘には巻き込まれない位置にいる。安堵して頷く。二人を守る責任なんてないのだけれども。
「追っ手でやすか?」
「いや、違う気がするね」
 老婆が呟く。
「ぅぅぁぁあああああ」
 飛翔音にまとわりつくようにかすかな叫び声が聞こえる。怯え切った情けない叫び声。声はだんだんと大きくなる。ズウラにもはっきりと聞こえる。こんな声を上げる襲撃者はいるだろうか。くらい空の中に飛翔体が姿を現す。ぐんぐん大きくなる。
「兄ぃ! お婆さん!」
 飛翔体の正体をみとめて、ズウラは叫んでいた。マラキイと老婆も気がついたのか、身構える。言葉もなく、二人の腕が複雑に組み合わせられる。戦いの体勢ではない。落下してくるものを受け止める体勢だ。
 叫び声が大きくなる。飛翔体は正確にマラキイたちの腕をめがけて落ちてくる。
「婆さん! 来るぞ」
「あいよ」
 マラキイの声に老婆が答える。二人が身を固める。飛翔体が迫る。
 激しい衝撃音がした。玉虫色の砂埃が上がる。
「兄ぃ! 大丈夫でやすか?」
 ズウラは砂埃が次第に薄れていく。尻もちをついて絡み合う姿が見えた。どうやら三人の人間のようだった。三人? マラキイと老婆ともう一人は?
「あたしは大丈夫だよ」
 老婆の声が聞こえた。
「おれも大丈夫だ」
 マラキイが答えて、続けて尋ねる。
「おめえは大丈夫か? メンチ」

【つづく】 

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