手口兄妹の冒険 vol.11

【前】

「あんだと? てめぇ、なめてんのか?」
「ノグラ黙ってろ」
 いきりたつノグラを手で制し、タマガサは文則に向き直る。
「悪いな、で、なんだって?」
「いや、さっき店長さんによ、このあたりのやつは大抵サイバネしてるって聞いたからさ」
「なるほど」
 日に焼けた生身の首筋を軽く掻いてタマガサは頷いた。
「サイバネ野郎が多いなら、こっちもそれなりの持ってねえとやり合えねぇんじゃねえかと思ってよ」
「うちの親父の方針でな」
「へえ」
「生身の喧嘩で勝ってこそシマをしめれるって言っててよ。まあ、親の言うことにゃ逆らえねえさ」
「それでちゃんと仕切ってんだからすごいことじゃないですか」
 カウンターからウリダが口を挟む。ニヤリとほほえみを浮かべながら、眉間に皺を寄せてタマガサが首を振る。
「そりゃあどうも。まあ、なんとか凌がせてはもらってるんだけどよ」
「そんなあんたらの親分さんがなんでドブンブレラなんかと? ドブンブレラもサイバネ扱ってるんじゃないのか?」
「さあね」
 タマガサは苦い表情を浮かべる。ゴリゴリとビールのグラスでカウンターを擦る。
「それがわからねえんだよ。親父のサイバネ嫌いは昔からだ。今さら曲げるくれえなら、組を畳んじまうはずなんだ」
「信念曲げる心当たりでもあるのか」
 文則の問いにタマガサたちは不意に口を噤んだ。不穏な沈黙。文則は首を傾げる。
「なんだよ」
「廃棄屑会ですか?」
 ウチダの言葉にタマガサの眉間の皺が深くなる。ため息。
「なんだい? 廃棄屑会ってのは?」
「あー、それはだな」
 ウチダの言葉をタマガサは手を上げて遮った。
「まあ、最近威勢のいい連中でな」
 目を逸らしながらタマガサが曖昧に言う。
 ウチダはタマガサが言い淀む理由を知っている。この地域で酒場を開いていれば、勢力争いの話はいくらでも入ってくる。
 廃棄屑会は新興のならず者衆だ。スクラップヤードから集めた鉄屑を組み合わせて作ったサイバネを武器にしている。
「押されてるってことかい?」 
「ああ」
「俺らは鉄くず野郎どもにゃ負けねえ」
 思わず、といった様子でノグラが口を挟み、
「うるせえぞ」
 とタマガサに嗜められる。
「まあ、うちらも今までのやつらに負けるつもりはねえんだが」
 そこまで言って、不意にタマガサは口を閉じた。
「おあいそ」
 タマガサは財布を取り出し数えもせずドブ券の束をウチダに放り投げる。
「ごっそさん」
 文則も言ってレインコートを羽織った。

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