手口兄妹の冒険 vol.12

【前】

「なんすか?」
 ノグラが問いかける。タマガサと文則は答えずに立ち上がる。
「毎度あり」
「いくぞ」
 ウリダの言葉を背に、タマガサは出口に向かう。男たちは懐に手を入れ、後を追う。
 少し間をあけて、文則も歩き始める。レインコートのフードを被りなおす。水玉模様に隠れ表情が見えなくなる。

「なんだ、てめぇらは」
 ノグラが吠える。
 バラック酒場の前、通りを包囲するように男たちが座り込んでいた。タマガサたちと同じような凶暴な顔のならず者たち。違うのは包囲者たちは黒光りする強化義肢を身に着けていることだ。振動ブレード、スプリングフット、ハードパンチャー、パイルバンカー、見せびらかすように剥き出しにされたその義肢はどれも威圧的な輝きを放っている。
 文則がフード越しに目を凝らす。
 どの義肢にも大きく削り取られた跡がある。目につきやすいところ。本来であればロゴが入っているであろう場所。
「これはこれはタマガサさんじゃあないですか。クニハラ組の先導頭さんがわざわざこんな安酒場にご足労とは」
 痩せた狐のような細目の男が、ならず者のなかから一歩前に踏み出してきた。さり気なく体の脇に垂らされた右腕は鋭く輝くカタナに換装されている。
「近所付き合いは大事だからよ。モモミヤ」 
 タマガサはならず者たちを睨みつけながら続ける。斬りつけるような威圧する目つき。一般の住人ならば睨まれただけで腰を抜かすような眼光だった。モモミヤと呼ばれた狐目の男は眼光に気圧された様子を見せずに目線を返す。
「ご面倒ならアタシら廃棄屑会が仕切って差し上げますよ」
「気遣いはいらん。てめぇらこそなんの用だ? 面倒起こさんでとっとと失せろ。」
「おや、恐ろしい」
 モモミヤは大げさに身体を震わせてみせる。
「まあ、こちとら面倒起こそうと来てるんですがね!」
 細い目が見開かれる。論理回路を仕込んだサイバネアイが青白く光る。廃棄屑会のならず者たち達の目が同期して点滅する。
 廃棄屑会が動き出すより早く、轟音が響いた。
「遅え」
 タマガサが呟く。その両手にはいつの間に抜かれたのか大振りな拳銃が握られている。
「え」
 廃棄屑会ならず者たちの口から驚きの声が上がる。中央に立っていたモモミヤの姿が消えている。ならず者たちは同時に振り返る。道端のゴミ箱、そこにゴミにまみれてモモミヤが倒れ込んでいた。
 その胸に大きな穴が開いている。穴からは白い煙が細く立ち上っていた。

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