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マッドパーティードブキュア 220

 メンチは首を傾げて尋ねた。
 いつの間にか女神の袋の話になっていたけれども、本当はこの斧に宿ったあの洞窟の『ドブヶ丘の心臓』の力の話をしていたはずなのだ。関係のある話とも思えない。
「いえ、それがおそらく、その二つは、根っこで繋がっているのですよ」
 セエジが言った。
「この本に書かれていたことが、真実ならば」
 セエジの指が机の上の本をさした。それから少しどこから話すべきかを考えてから、口を開く。
「『ドブヶ丘の心臓』とは、特定のものではないようなのです」
「そうなのか? でも、あたしは確かにあそこで」
「ええ、そうでしょう。メンチさんは、あの洞窟で、『ドブヶ丘の心臓』に出会った。それは間違いありません。しかし、それは……『ドブヶ丘の心臓』の持つ諸相の一つでしかないのです」
「いや、どういうことだよ」
 投げ出したくなる気持ちを抑えて、メンチは口を挟んだ。こんなに難しい話は「結果だけ教えろ」と言って投げ出してしまいたい。自分の身に関わる話でなければ、そうしていただろう。今までそうだったように。だが、今回はそういうわけにはいかない。
「あたしにもわかるように説明しろ」
「ええ、もちろんですよ」
 セエジが頷く。頷いてから、また考え込む。言葉を探しているのだ。メンチにもわかるように説明するための言葉を。
「つまりですね、メンチさんが出会った『ドブヶ丘の心臓』は、たまたまこちらの世界に現れた向こうの世界の窓、のようなものなんです」
「向こうの世界ってのは……この、ここと街のことなのか?」
 首を傾げながら、顔をしかめながら、窓の外を指してメンチは尋ねる。セエジは首を振る。
「そうではありません。そう、こことは別の、領域があると考えてください。ここと街よりも、大きく異なる領域です」
「どんな領域ってんだ?」
「混沌の世界です」
「ここもぐちゃぐちゃじゃねえか」
「ここよりももっとです。混沌そのもののだと考えてください」

【つづく】

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