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マッドパーティードブキュア 175

「しかたねえな。俺も手伝ってやるよ」
 ため息交じりにマラキイが言った。ズウラが驚きの声を上げる。
「いいんですか? 兄ぃ」
「ああ、いいさ。手伝ってやるよ。その『ドブヶ丘の心臓探し』」
 あくびをしながらマラキイが答える。
「それはありがたいですね」
「何を企んでいるんだ?」
 眠たげなマラキイの顔をいら見つけながら、メンチが問いただした。
「別に、なにも企んじゃいねえよ。ここで動物たちの相手をさせられるのに飽き飽きしてたところなんだ。あいつらが『ドブヶ丘の心臓』をねらってるって言うんなら、それを先に手に入れてやりゃあ、もう出てくることもなくなるだろう」
「確かに、そうですね」
 セエジが答える。メンチはまだ納得できないでいる。マラキイは確かに気まぐれで、他人のために動いたりするところはある。それは一緒に行動してきて何度か見たことがあることだった。けれども、今度の選択はそういったこととは違う何かがあるような気がする。眠たげに細められたマラキイの目を覗き込む。そこには確かな意思を感じる。見知らぬ他人のためではなくて、自分自身が何かに納得するための決意。
 それがどのような決意なのかメンチにはわからない。そんなよくわからない決意に巻き込まれるのはまっぴらごめんだ。
「あたしは行かないからな」
「メンチ」
 テツノが呼び掛ける。
「いいよ、メンチ。別に私はそんなものいらないから」
 穏やかな声に心がざらつく。メンチはそれを無視する。
「ここでは、症状が進まないって言うなら、いいよ。ずっとここにいればいいんだから」
 メンチは答えない。
「僕も構いませんよ。マラキイさんが手伝ってくれるなら十分だ。僕たちが動き出せば、こちらに来る獣たちの数も少なくなります。それならメンチさんだけでも対処できるでしょうから」
「そうかよ」
 セエジの無神経な声に苛立ちは増す。メンチはぶっきらぼうに言い返す。
「だったら、とっとと行っちまえよ」

【つづく】

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