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マッドパーティードブキュア 222

「やっぱりお前は奴らの手先だったのか」
 メンチは疑いの目をセエジに向けた。
「そういうわけではありません。ただ、やつらの目的がそうだといううだけです。それをあなたたちにも知っておいてください」
「でもよ」
「それが正しいどうかは別として、現在の状況を考えるのには有効です」
「やつらは世界の存続を狙ってるってことでやすか?」
「そういう一面があることは否定しません。ただ」
 ズウラの言葉に頷いてから、セエジは再び液体をかきまぜた。今度はさっきよりも少しだけ強めだった。泡がいくつか浮かび上がりくっつきあう。
「奴らがやっていることはこのようなことなのです」
「つまり?」
「こうすれば、泡は少しだけ長く残ります」
「ああ、そりゃあそうでやしょうけど」
 セエジの言葉にズウラが頷く。
「かきまぜるというのがつまり、混沌に方向性を与えるということなのです」
「じゃあ、誰が混沌をかきまぜたって言うんでやすか? コップの中の液体が、勝手にかき混ぜられるなんてわけはないでやしょう」
「そうですね。そこが奴らの考えの穴だと思います。方向のない世界に何かが方向を与えることはできません」
「奴らはどう考えているんでやすか? そのことを」
「外なるもの、と呼ばれる存在がかき混ぜた、と言っていますね」
 肩をすくめながら、セエジは言う。少し呆れてバカにしているような口調だった。メンチはその口調にどこか意図して作られた匂いを感じた。けれども、何も言わないでおくことにした。混乱した頭の見せた錯覚かもしれないと思う。
「あんたはどう思ってるでやすか?」
 ズウラが尋ねる。
「僕ですか? そうですね」
 セエジはフォークをテーブルの上に置いた。コップを取り上げてゆっくりと揺する。表面に微かな波が起きて泡が立った。
「あくまで僕個人の考えですが、偶々生まれた方向自体が傾向を生み出したのでないかと思いますよ」
 セエジは首を振った。
「また話がそれましたね」

【つづく】

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