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アウトリーチの質を上げる必須条件!オーキャンの模擬授業が感じさせる、ターゲット設定することの大切さ

3月に入ってから大学のプレスリリースを見ていると、よく春のオープンキャンパスを伝えるものが目に留まるようになりました。もうコロナの“コ”の時も感じさせないなーと思いつつ、いくつか見比べていると、ちょっとした気づきがあったので、今回はそれについて取り上げます。ちなみに、入試広報ではなく、社会人向けの広報につながる話です。

ターゲット像が見えているオーキャンの「模擬授業」

じゃあ何が気づきになのかというと「模擬授業」です。上に取り上げた駒澤大学と立正大学のリリースにも模擬授業のくだりがあるのですが、まあ高校生が興味を引きそうな内容なんですね。それぞれリリースに載っていた模擬授業のタイトルを、あらためて下記させてもらいます。

<駒沢大学>
・仏教学部「妖怪と仏教」
・文学部歴史学科「古代エジプトの神々について」
・経営学部「禅とiPhone」

<立正大学>
・文学部史学科「ネコ解放令」
・地域環境学部環境システム学科「絶滅危惧種を喰らう」

どうでしょう、パッと見ただけでも、いかにもって感じです。「ネコ解放令」なんかもうヤバい、高校生じゃないですがすごく聴いてみたいです…。

ターゲット像を決めることで、アウトリーチの質は上がる

今回、これら模擬授業のタイトルを出したのは、なんか面白そう…という話をしたかったからではありません。これら模擬授業が、ちゃんとターゲット像が見えていて、そこに当ててきているんです。受験生や高校生が来ることがわかっているんだから、当たり前といえば当たり前です。

でも、他の公開講座やシンポジウムを見たとき、一つひとつは何となくターゲット像が浮かんでくるものの、大学単位、部局単位、ときには一つのプログラムのなかでも、ターゲット像がバラバラなことが多いんですよね。シニア向けのものがあれば、その道のマニア向けのものもあり、ビジネスパーソン向けのものもある。ものによっては、これはもう研究者じゃないと興味を持たないのでは?みたいなものもあります。

正直、そろえようと思えばそろえられるんだから、いったんは大学として公開講座等のメインターゲットを決めて、全学で共有した方がいいと思うんですよね。「本学の社会向け講座のターゲットはここです!」って。

もちろん企画によっては、伝えたい相手はそこじゃない、というのはあると思います。そのときは、そちらを優先してもらって、なんら問題はありません。でも、対象について具体的に考えていなかったり、そこにこだわりがないなら、まずは全学で定めたターゲット像に響くように企画を考える。そういう進め方に変えることができれば、それだけで全学としてのメッセージ性は一気に上がると思います。

大学が示したターゲット像に、学内からの支持が得られなかったとしても、それはターゲット像を改善するチャンスです。軌道修正をすればいいだけのこと。また、反対の声をあげた部局なり企画の担当者は、自動的に「ならこの講座は誰にためにやるのか?」という”問い”を宿題として渡されることになります。その答えを探すことで、講座の質は必然的に上がるはずです。

なぜ大学はアウトリーチのターゲットを決めたがらないのか

こういうことを進めようとすると、まず間違いなく、「ターゲット像をしぼると、それ以外の人が興味を持たなくなるのでは?」と意見する人が出てきます。これって大きな誤解だし、この意見に頷いてしまうと、その後の内容の改善は見込めなくなります。

大きな誤解というのは、ターゲット設定というのは、ターゲット以外をすべて切り捨てることではなく、そのターゲットを他の人たちより一つ上に置く、ということです。最も伝えたい人によく伝わるようにするのと、他の層に伝わらなくなるのは、まったく別の話です。

そして、ターゲットを設定する、具体化するというのは、ものごとを主観ではなく客観で理解するために必須の作業です。別の言い方をするなら、ターゲットが設定されていないと主観で判断することになり、声の大きな人の意見や感覚が優先されることになる、ということです。そうなると、なぜ良いのか(もしくは悪いのか)を、客観的に説明することができないので、改善できないし、同じクオリティの講座を量産することもできません。さらにそもそも、本当に良いのか(もしくは悪いのか)が、わからないまま進んでいかなければいけなくなる。そんなことを続けていったら、担当者は振り回されるわ、何のためにやっているのかわからなくなるわで、メンタルがボロボロになっていきますよね…。

話がとっ散らかってきたので、最後に少しだけまとめます。今回、伝えたかったのは、オープンキャンパスの模擬授業はターゲットがしぼれており、面白そうだしメッセージ性が強い。同じ視点を、公開講座やシンポジウムに広く取り入れていくと、アウトリーチ全体の質が上がるのではないか。そもそもターゲットを明確化・具体化しないと、評価も改善もできないし、担当者の心は荒んでいく……。こういった動きが生まれにくいのは、ターゲット像を決めることへの誤解があるからではないか、という話です。

学内コンセンサスを得なくても暗黙の了解でターゲット像が固まっているのは、受験生・高校生に向けた取り組み、つまり入試広報だけです。今後ますます重要になる社会人に向けた取り組みでも、いったん仮置きでいいのでターゲットを決めて、もっと建設的に動かしていけないだろうか。大学のいろんな社会人向けの取り組みを見聞きし関わっていると、強くそう思います。

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