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スマホ持ち込みOK!タブーに切り込む産業能率大の新たな入試方式が問いかける、これからの入試の役割。

今年度の大学入試というとコロナ対策をどうするのかがよく話題にあがっていますが、今回、取り上げるのは、それとはまったく関係のない入試関連のトピックになります。産業能率大学が全国初となるスマホやタブレットを持ち込んでOKという、新たな入試をはじめるそうなのです。とうとうここまできたのか、と思う反面、いやいやいいのかとも思ってしまうこの入試について、今回は取り上げたいと思います。

スマホが持ち込める入試の中身とは?

産業能率大学のこの入試は「未来構想方式」という、やや大げさな名前がつけられています。プレスリリースによると、「同方式で測る力は知識そのものではなく、知識や経験を『活用・応用する思考力』。社会の問題に対し、自身の知識や経験を活かして課題を発見・解決する力を測る、新時代の大学入試」とのこと。

本試験の詳細ページをのぞいてみると、センター試験での足きりや、事前課題があったうえで、スマホ、タブレットなどが使用可能なレポート試験があるようです。ちなみに、このレポート試験の内容は下記になります。

近未来でのある地域での社会状況(シナリオ)を読み、このような状況に陥らないためには、どのような構想を描き、方策を構築するべきかについて考え、レポートをまとめる。(A4レポート用紙2枚程度)

どうなんでしょう……、どうなんだ?リリースの見出しを見たときは、だいぶ色物な入試だと感じたものの、試験内容を見て、また募集人数が各学科5名だということを知ると、試験的にではあるものの、受験生の能力をしっかり見定めようとしている意志を感じました。

試験会場の公平というタブーに切り込む

この入試が面白いのは、スマホやタブレットが使えることもそうなんですが、自分のものを持ち込めるんですね。情報を検索して、論理的に組み立てる能力を測るのであれば、大学支給のタブレットでこの試験を実施した方がよっぽど公平です。でも、この入試はそうじゃないんです。

自分の手持ちのツールであれば、いくらでも仕込んでおくことができます。今回の入試だと、すでに「近未来の地域に起こる(恐らくネガティブな)社会状況」がテーマで、その打開策を論述するというところまでわかっています。本試験では「活用はあくまで検索のみとし、通話およびSNS、メール等による外部との連絡は禁止」とあり、これの解釈をどうするかによって活用方法は変わるのですが、関連しそうな資料や、いけてる考察をしている記事なんかにブックマークをつけておくと、それだけでも有利に立ち回れるように思います。noteなんかに自分なりのメモを保存しておき、検索で引っ張ってくるというのもルール上可能です。さらにいうと、これら下準備を自分ひとりでやる必要もないわけです。

別視点で気になるのは、大学支給のものではないということは、人によって使うツールの性能が異なるということです。最新のスマホを持っている受験生と、そうではない受験生で、試験への有利不利が出てきます。ここらへんは5Gが普及していくと、けっこう如実に差が出てきそう。そして、これらツールの格差は家庭の経済状況とも関わってくるかもしれません。

これまで試験では、できるだけ公平な状況で学力を測るというのが暗黙の了解でした。といっても学力自体、突き詰めていくと家庭環境などとも関わってくるので、当人の能力を測るというのは、どこまで厳密にできるのかは甚だ不明瞭ではあります。でも、少なくとも試験会場では公平であるべき、という考えは一般的でした。今回の「未来構想方式」入試は、この一般的とされてきた考えにかなり反しています。それが悪いのかというと、うーん、どうなんだろう。いや、こういうのもあっていいんじゃないか、とも思うのです。

試験ではかる能力は時代とともに変わるべき?

思えば、この世の中、情報が溢れかえり、どんな分野であっても学びやすくなったし、ある程度まではテクノロジーがサポートないし代替してくれるようになりました。これによって、専門性に対する価値が下がってきたように思います。一方で、乱立する専門性をどう活かし、つなげ、新しい価値をつくるかという、キュレーションのような能力が重視されるようになってきている印象があります。こういう世の中の動きと、「未来構想方式」入試はよく合っているように思います。考えようによっては、こうも世の中が変わってきているのに、試験の主流が未だ机に座ってカリカリと書く筆記試験ということの方がおかしいのかもしれないです。現代の筆記試験も、中国・随の時代の科挙も、試験方式としての根本は同じですから。

でも試験会場で公平であるということをタブー視されなくなると、試験はどのように変化していくのでしょうか。たとえば、AIと一緒に試験を受けるとか、自分が育てたロボットが代わりに試験を受けるとか、そんな入試も出てくるかもしれません。そもそも試験という、当日のコンディションに左右されるかたちで能力をはかること自体がナンセンスになるかもしれません。つい先日、立命館大学と、教材開発会社「アタマプラス」が大学入試について共同研究をはじめるという記事を見つけましたが、これも次世代の入試につながる動きのように思います。

入試のあり方は、大学のあり方と直結するものなので、こういう尖った動きはとても興味深いです。各大学が自校のアドミッションポリシーに則ってぶっ飛んだ入試をはじめると、たとえ募集人数が少なくても大学の考え(ポリシー)を世に浸透させる意味で効果があります。ぜひもっともっとでてきて欲しいです、ユニークな入試!


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