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この動画は“お菓子”か“薬”か?大学が高校生向け連載動画をつくる上で意識しておきたい、動画の位置づけ・考え方。

YouTubeやSNSを通じて高校生が日常的に動画と接するようになっていたところに、コロナ禍に入って大学の通信環境が一気に整備されたことで、大学広報での動画活用は急速に広まりました。今回、見つけた東京経済大学と札幌学院大学の取り組みも、そんな動画を使った広報活動のひとつです。両方とも似た方向性の取り組みで、コロナ禍を経た今だからこそできる取り組みのように感じたのですが、はたしてこういうアプローチは有用なのでしょうか。少し考えてみたいと思います。

コロナ禍を経た、今だからこそできるアプローチ

では、どんな取り組みなのかについて、簡単に説明させてもらいます。まず東京経済大学は、「東経大LIVE」という、高校生向けのリアルタイムライブ講義です。学部名だけでは何を学ぶのかがわかりにくいという声を受け、1回30分のオンライン講義を3月から6月にかけて合計11回開催するとのことです。

もう一つの札幌学院大学の取り組みは、「学びのるつぼ〜人間を科学する~」というタイトルで、同大学人間科学科の教員たちが人間科学科の学びの魅力と各教員の専門領域を紹介するレクチャー動画を同大学公式YouTubeチャンネルで連載するというもの。こちらはすでに12本の動画が公開されていました。

「東経大LIVE」は3/29が第1回目なので、中身を見れていないのですが、「学びのるつぼ」は各教員が自身の専門と関連するワンテーマについて話し、その後そのテーマについて学べる科目や専攻を説明するというものでした。おそらく動画制作会社が入ったものではなく、先生たちのハンドメイドなのでしょう。スライドと教員の声によって構成された動画は素朴なつくりではありましたが、学びを知るという意味では十分な内容なのかなという印象を受けました。

「東経大LIVE」はいわばオンライン講義で、「学びのるつぼ」はオンデマンド講義です。両方とも、コロナ禍を経た今であれば、ほぼすべての大学に作成するノウハウがあります。つまり、やろうと思えばどの大学でも、(クオリティはともかくとして)同じようなことがやれる、そんな状況ができているといえます。

「高校生向け」+「連載動画」の可能性

ではこれら企画は、ぜひやってみるべきなのでしょうか。現段階では、まだ何とも言えないな……というのが、私の正直の感想です。というのも、「高校生向け」の「連載動画」というのが、どこまで見てもらえるのかが未知数なように思えたからです。「シニア向け」の「連載動画」であったり、「高校生向け」の「単独動画」であれば、企画にもよるとは思うのですが、けっこう成立しやすいように思うんですね。でも、「高校生向け」の「連載動画」になると、はたしてどうなのでしょう。

両大学の意図として、すべてを見てもらう必要はなく、気になるものを一つ、二つ見てもらえればそれでOKという気持ちはあるように思います。でもほら、そうはいっても連載しているわけですから、継続して見てもらえるなら、それに越したことがないはずです(ですよね?)。だとするなら、高校生が大学の講義動画を定期的に見るのは、どんな動機からなのか、そこをちゃんと考えなくてはいけません。

その動画がユーザーにとって“お菓子”か“薬”かを考える

講義動画に限定した話でも、そもそも動画に限定した話でもないのですが、私はユーザーがコンテンツを見る理由というのを極論してしまうと、それがその人にとって“お菓子”か“薬”のどっちかになるからだと思っています。お菓子というのは、体にいいか(=役立つか)どうかは置いといて、それを食べたい(=面白そう)と思うもの。薬というのは、それが美味しいか(=面白いか)どうかは置いといて、体にいい(=役立ちそう)と思うものです。

ちなみに、体によくて美味しいものがベストではあるのですが、それをめざしてしまうのは、単にコンセプトがツメきれていないだけなので、最終的に方向性がブレてよくわからないものになりがちです。北に行きつつ東へ行け!みたいな指示を出した結果、北東に進んでしまうみたいな感じでしょうか。北にも東にも行き着くべきゴールはあるものの、北東に進んだからといって、どちらにも行き着けません。制作の前段階でツメておかないと、たまにこういう悲しき迷子に陥ってしまうことがあります。

閑話休題。……とまあ、大学の講義動画が“お菓子”か“薬”かと考えたとき、シニアや社会人に対しては、“お菓子”と“薬”どちらの可能性もあって、けっこう悩ましいんです。でも、高校生であればわかりやすくて、“薬”として伝えたほうが興味を持つ人が多いように思うんですね。

どちらかというと「東経大LIVE」は“薬”寄りで、「学びのるつぼ」は“お菓子”寄りのアプローチだと思います。ただ、どちらももっと意識的に“薬”に振ってみてもいいのではないかという気がしないでもありません。たとえば、そうですね……、「高校生必見!学部選びを考える前に絶対に知っておくべき、10の学問(文系編)」とかでしょうか。品がないですかね……。とはいえ、面白いからではなく、必要だからという視点が、高校生に継続的に興味をもってもらううえで、とても大事な気がします。じゃあそういうアプローチが好きかというと、まあそれは別の話ではあるんですけれども…。

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