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雑学マニアの雑記帳(その6)語呂合わせ

その昔のことである。テレビのニュースを見ていると、大蔵省が次年度の予算案を発表したことを伝えていた。その中で、予算原案の「語呂合わせ」が併せて紹介されていた。1973年度の予算額は14兆2840億7300万円、語呂合わせは「いい世に走れ73年」、なるほどうまいこと考えるものだと感心したことを思い出す。
そして、このニュースにはさらに続きがあった。当時、大蔵省作成の語呂合わせに対抗してマスコミも独自の語呂合わせ(大抵は皮肉交じり)で応じてみせるという慣習があったのだ。そのニュースで伝えられたマスコミ作の語呂合わせは「いい世にはしない73年」であった。さらにひどいものになると「人死に始まる73年」などというものまで紹介される始末であった。
ひとつの数字に対して、ここまで多様な語呂合わせが可能であることは、感心を通り越して驚きであった。小学生の時に見たニュースであるにも関わらず、そこで伝えられていた国家予算の数字を40年以上経っても忘れていない(覚えようともしていないのに)のだから、語呂合わせの威力は絶大だ。
バブル崩壊の頃からか、語呂合わせなどの「お遊び」をしている場合ではない、ということにでもなったのか、予算額の語呂合わせの慣習は無くなってしまったようだが、個人的には予算案の数字を見ると、語呂合わせを試みるのが習慣になってしまった。2016年度(96兆7218億円)であれば、「急務何一つやらぬ」、2017年度(97兆4547億円)であれば、「急な仕事夜中まで」(過労死頻発を受けて)、2018年度(97兆7128億円)であれば、「苦難無い2パー」(消費税2パーセント増税にかけて)、など何かしらの語呂合わせができるものだ。なぜ、このように容易く語呂合わせが作れるのだろうか。おそらく、「語呂合わせ可能な組合せの数」が膨大になるため、しらみつぶしに調べていけば、意味の通るものが出てくる可能性が高いのだろう。
例えば、同じ「0」という数字でも、「ゼロ、レイ、マル、ワ、ナイ、オー、…」などいくつもの読み方を宛てることができるため、意味の通る語呂合わせが作れる可能性も高まるのである。「2」については英語まで組み込んで「ツー」とか「ツ」といった読み方をさせてしまう。「5」は「ご」だけでなく濁点を取った「こ」でも良い。このように各数字の読み方に幅を持たせている点が「語呂合わせ候補」の幅を拡げるのだ。
ただし、これをやりすぎると問題が発生する。例えば「5」については、「いつつ」の連想から「い」という音を宛てることがあるが、「1」も「い」と読ませることがあるため、語呂合わせの中に現れる「い」が1なのか5なのか判別できなくなってしまう恐れがある。例えば、7の平方根(2・64575)を覚えるのに「(菜)に虫いない」という語呂合わせがあるが、これを2・64171と解釈してしまっては駄目なのだ。「い」を使う場合には1なのか5なのかを意識して覚えておく必要がある。語呂合わせの幅を拡げようとしていくと、このような曖昧性の問題に突き当たることになる。注意が必要だ。
また、語調を良くしようとする余り、余計な(数字に戻す時に誤る可能性の高い)言葉を入れてしまわぬように注意する必要もある。例えば、5の平方根(2・2360679)を覚えるのに「富士山麓オーム鳴く」とせずに「富士山麓オーム鳴く」とやってしまうと、語調が良くなる代わりに誤って「2」が埋め込まれてしまう恐れがある。むかし「受験生ブルース」というフォークソングがあったが、その歌詞の中では「富士山麓に…」とやっていた。この歌によって誤った数字を覚えてしまって大失敗した受験生がいなかったことを祈りたい。
このように便利な語呂合わせ、日本語特有のものではないだろうか。例えば英語で円周率を覚えるための語呂合わせ的なものとして、Yes, I have a numberというのがある。各単語の文字数を並べると3・1416となる。しかし、この方式で桁数をさらに長くするのは(意味のある長い文章を考案するのは)容易ではないだろう。そもそも「文字数」を数えるという作業自体が手間がかかるし、数え間違いの可能性も孕む。一方、日本語の語呂合わせであれば、「産医師、異国に向かふ(ムコー)。産後厄なく産婦御社(ミヤシロ)に。虫さんざん闇に鳴く。」と三〇桁(3・141592653589793238462643383279)でも楽勝である。
携帯電話が普及する前は、よく使う電話番号は大抵語呂合わせで覚えたものだが、今はその必要はない。従って受験勉強でもない限り、語呂合わせの出番は少なくなってしまったようだ。日常生活でスマートフォンが手放せない現代では、そもそも複雑な数字など暗記しなくても、スマートフォンに記録しておけば、いつでもどこでも簡単に参照できるのだから、語呂合わせの出番が減るのも当然なのかもしれない。
さて、語呂合わせは数字を暗記するために使われるのが一般的だが、実は別の活用法もある。数字ありきで語呂合わせを考えるのではなく、逆に自分の名前などを語呂合わせで数字に置き換え、車のナンバーや電話番号の下四桁などを選択・指定する使い方だ。名前を数字に置き換える例としては、はやと(8810)、いちろう(16)、なおと(7010)、こうじろう(526)、みな(37)、くみこ(935)、ひろこ(165)、なつみ(723)などが挙げられる。どんな名前でも数字に出来る訳ではないが、偶然にも自分の名前が語呂合わせ可能であるとしたら、このような番号選択は、ちょっとしたお楽しみである。斯様に語呂合わせは本当に面白く便利なツールである。ただし、自分の名前の語呂合わせを使って暗証番号にすることだけは避けねばなるまい。容易に見破られてしまうこと必定である。

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