時かけ

時をかけるおじさん 17 / 壊れたテレビ

昨年7月頃の話。

数日前から父は、寝室のテレビが壊れたと確かに言っていた。私も余裕がなく、取り合わずにいたのがよくなかった。ふと父の寝室を覗いた母が、テレビの配線を外し移動しようとしはじめていた父を発見。
どうやら、半年ほど前にテレビの配置や契約などを変えた際に、業者にきてもらって配線を組んでもらったらしく、「外しちゃったらわからなくなるじゃない!!」と母は激怒した。
それに対し、「テレビの配線なんて難しいものじゃないし、今まで全部自分がしていたのだからそんなに喚き立てるな」と反発する父。
「じゃあ目の前で繋いでみせてよ!」なんて押し問答をしても、父は「そう焦らせないで、勝手にやるから放っておけ」と取り合わない。

母が呆れて部屋を出ていったあと、私はいたたまれなくなって、父をこんこんと責めた。
そうやって、すべてのことを簡単と言わないでほしいと。配線だってごはんだってお風呂だって、簡単だったことが今難しくなっていることがたくさんあるんだよ!!と。後から思えば他のことに汎化して話すなんてずるいしそんな根本のことを話す場じゃなかったのかもしれないが、話し出すと止まらなかったし、ひどいことをたくさん言った。そんなこと言われ続けたら私たちだって面倒みきれないからね、とまで言った。

テレビの移動をしなければ、配線は色々やってみてもいいから、とだけ言って去ろうとしたら、父も急に素直になって「わかった」と言った。そのつらそうな表情を見て我に帰る。こんなに父に現実を突きつけるのは不毛なことなのかもしれないと。あっけらかんと忘れているような雰囲気の父に苛立つこともあるけれど、父はいろんなことを感じてわかっている。わざわざ言葉にして責め立てるのには意味がないかもしれないけれど、言わずにはいられない瞬間がたくさんある。この頃の私に余裕などみじんもなかった。

その後帰宅した弟に、テレビの配線は直してもらった。
もしかしたら初登場だったかもしれないが、私には9歳年下の弟がいる。
家に若者がいることは、結構助かるのだった。

文・絵 / ほうこ

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