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名称の権利化とブランディング戦略(後編)|大学の名称変更と不正競争防止法

前の記事では、名称の権利化とブランディング戦略【前編】ということで、商標権による名称の保護について書いてみました。

本記事では、じゃあ商標登録してないときは何もいえないの?という話を書いてみたいと思います。

結論からいうと、このときは不正競争防止法という別の法律での保護を検討することができます。これは商標法とはまた別の法律ですので、商標登録していないときでも使うことができます。

これも少し前になりますけど、こんなニュースがありました。

「京都芸術大」名称使用可 市立芸大の差し止め請求棄却―大阪地裁|時事ドットコム(2020/08/27)

京都造形芸術大学の「京都芸術大学」への名称変更は類似して混乱を招くとして、京都市立芸術大学(京都市)が、不正競争防止法に基づき、京都造形芸大を運営する学校法人に名称の使用差止めを求めた、というものです。

何というか血の通ってないコメントで申し訳ないですが、不正競争防止法をみるときのお手本になりそうな事案だったので、これを素材にしてさらっと見てみたいと思います。

なお、引用部分の太字や下線は筆者によるものです。

不正競争防止法って?

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まず、不正競争防止法って何のこと?って感じですけども。。

不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を確保するため、いくつかの不公正な競争行為を定めて(不正競争行為といいます)、差止請求や損害賠償を認めている法律です。

そのなかに、混同惹起行為著名表示冒用行為というのがあって、これらは名称の保護として機能します。

ニュースの事案は、この2つを根拠とした名称使用の差止請求でした。

規制の対象はどんな行為?

不正競争防止法の該当部分を、ざっと見してみたいと思います。

混同惹起行為というのは、ある一定のエリア(全国でもよい)で知られている(=周知性のある)他人の表示と同じような表示を使って、そことの混同を生じさせるような行為のことです。

周知性というのは、「需要者の間に広く認識されている」ことで、全国的に知られている必要はなく、一地方であっても足りるとされています。

著名表示冒用行為というのは、周知性よりもさらに強力な「著名性」を獲得している表示の場合、混同を要件とせずに不正競争行為とするものです。

さらにザクっと感覚レベルで説明すると、

混同惹起行為は、ローカルにそこそこ知られている他人の表示と混同させるような表示は使っちゃダメ、というもの

著名表示冒用行為は、全国的に超有名な他人の表示については、混同させようがさせまいが使っちゃダメ、というもの(それは他人が培ってきた信用へのただ乗りであり、その価値を毀損するから)

という感じです。

ちなみに条文は、不正競争防止法の2条1項1号と2号になります。

Caseで見てみると?

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冒頭のニュースの事案を、Caseとして見てみたいと思います。

原告側の請求の根拠としては、

1 京都市立芸術大学
2 京都芸術大学
3 京都芸大
4 京芸
5 Kyoto City University of Arts

という5つの表示を、自らの周知表示または著名表示として主張して、これらと類似または同一の「京都芸術大学」の使用を差し止めようとするもの、でした。

これに対して、裁判所(大阪地裁)の結論としては、

著名性:1~5まで全て否定
周知性:1は肯定、2~5は否定

という判断でした。

著名性の判断は?

著名表示冒用行為の「著名性」についての判断は、一部抜粋すると、以下のとおりです。

▽大阪地判令和2年8月27日(令元(ワ)7786号)

「不正競争防止法2条1項2号の前記趣旨に鑑みると、『著名』な商品等表示といえるためには、当該商品等表示が、単に広く認識されているという程度にとどまらず、全国又は特定の地域を超えた相当広範囲の地域において、取引者及び一般消費者いずれにとっても高い知名度を有するものであることを要すると解される。
 これを本件について見るに、大学の『営業』には学区制等の地理的な限定がないことに鑑みると、地理的な範囲としては京都府及びその隣接府県にとどまらず、全国又はこれに匹敵する広域において、芸術分野に関心を持つ者に限らず一般に知られている必要があるというべきである。」

こういう感じで、非常に高いハードルが要求されています。

そして、最も有力そうな、1の「京都市立芸術大学」でも著名性を獲得するには至っておらず、したがって当然、その余の表示も著名性は認められない、と判断されています。

周知性の判断は?

混同惹起行為の「周知性」についての判断は、かいつまんでいうと、1以外の表示については、

〇1の表示と比べたときの、それ以外の表示の使用頻度の少なさ
〇「京都」「芸術」「大学」のそれぞれは所在や種類を示すありふれた言葉であること
〇表示にバラつきがあること自体が、それぞれの通用力が高くないことを示していること
〇 1以外の表示が被告大学を示す表示として使用される例も見られること

などが指摘されて、1以外の表示は、原告大学を示すものとしての周知性は認められない、とされました。

また、周知性が認められた1の表示も、「市立」部分の識別力が強いので、「京都芸術大学」と混同を生じるおそれはないとして、請求は棄却となりました。

結び

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ちょっとややこしい話でしたけど、比較的最近のニュースを題材に、不正競争防止法による名称の保護について見てみました。

このCaseでは、いずれも棄却=つまり不正競争防止法での保護は認められなかった、ということです。なお、現在、大学名は京都芸術大学に変更されています。

周知性でもかなりハードル高いですし、著名性になるととんでもなく高い、っていう感じがします(←筆者の感想です)。

個人的には、著名性というのは、ヴィトンとかユニクロとか、そういうレベル感のものにしか認められないんだろうなあ、と思っています。(←私見です)

ということで、2記事にわたって、名称の権利化や法的保護について書いてみました。


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