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大学×不動産会社×教育・学び=まちづくりの新たな形

 数年前から不動産会社が大学との連携を強化していることは、ご存じでしょうか。2024年4月22日に、三菱地所と東京学芸大学、一般社団法人大丸有環境共生型まちづくり推進協会(エコッツェリア協会)は、「新しい時代の学びの場づくりに関する包括協定」を、東京・大手町にある3×3Lab Futureにおいて締結しました。

 今回の協定の内容は、(1)教育・学びを核にしたまちづくりに関すること、(2)新たな学び空間・学び舎に関すること、(3)地域特性を生かした共創コミュニティに関すること、(4)地域、大学、都市の連携・仕組みづくりに関すること、(5)人材育成プログラムに関すること--を挙げています。三者は、学校・地域・まち全体を学びの場と捉え直し、多様な世代や業種のメンバーが集まる未来思考の学びのコモンズ(共有地)を核としたまちづくりを推進していくとしています。
 
 東京・大手町や丸の内、有楽町エリアは、三菱地所が長きにわたり開発してきた街であり、大企業の本社や外資系企業が集中する日本有数のオフィスエリアです。このエリアには約35万人が働いていますが、子供や学生といった若い世代との交流機会が多いとは言えません。そこで大学と連携し、ここで社会人と学生が交流し、共に学ぶ場やプログラムを提供することで、社会人に対しては新たな発想を、学生にとっては生きた社会との接点が得られるようになります。東京学芸大学としても、ここでの取り組みを起点に「全国に学びを中心としたコミュニティ、まちづくりの構築」(國仙久雄副学長)を図っていきます。

活動拠点となる東京・大手町の「3×3Lab Future」

 三菱地所は、これまでも3×3Lab Futureを活動拠点に、エコッツェリア協会によるコミュニティ活動を行ってきました。具体的な活動として2009年4月から開始したビジネスパーソン向けプログラム「丸の内朝大学」は、年間約2500人が受講し、出勤前の時間を活用する取り組みが続いています。夏休みの3日間は、大学生や高校向けのプログラム「丸の内サマーカレッジ」を実施しています。

 今回の協定による具体化の一つとして、社会人向けである「丸の内朝大学」などへの学生の参加に加え、「丸の内サマーカレッジ」に東京学芸大学の学生などが参加することも検討しているようです。また、このエリアの社会人と全国の子供たちが交流するプログラムの開発も進めていく方針です。

大学は社会との接点を求めている

 大学にとって不動産会社と連携するメリットは何でしょうか。ここでは、博士課程に籍を置く身としての視点から捉えていきたいと思います。ひとつは、研究成果の応用や基礎研究のデータの収集などの機会を得られることでしょう。今回の場合は、学校施設の見直しをきっかけに学校教育の中に地域の人や社会人の参加を促し、子供も大人も学ぶことで創造性を発揮して、新たな学校教育プログラムを構築し、主体的な学びの循環を作り上げていくという狙いがあるようです。近年の大学は、学生や教員が社会との接点を増やすとともに、実証研究の場を求めて企業や地方自治体と連携するケースが増えています。

 今回の協定については、日本経済を動かしている当事者が、全国の学校教育の場に出向く機会を得ることで、子供が持つ創造性に触れて新たなビジネスの創造につながることも期待できます。不動産会社が大学と組み、テナントである企業に様々な機会を提供することは、開発する街の競争力アップにつながります。

 最近のまちづくりは、こうしたソフトの取り組みが重要性を増してきているのです。今回の協定は、新しい時代の教育の構築を通じて、新たなまちづくりを模索していく興味深い取り組みだと思います。


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