見出し画像

絶望に学ぶ人間のありかた『死に至る病』キルケゴール

デンマークの哲学者・キルケゴールの哲学的探究を紹介したい。

彼の主著である『死に至る病』とは「絶望」のこと。

本書ではその「絶望」について深く掘り下げ、ほとんどの人間が何らかの形で絶望していると説いている。

絶望について学びたい人や、実存主義への流れをおさえたい哲学好きな人にもオススメ。

実在主義とは何か

1849年発刊の本書は、ヘーゲルの理性論批判で知られる「実存主義」のはじまりとなる記念碑的な一冊。

ゆえに「実在主義」とは何かを知ることが本書を理解する助けとなるだろう。

「実存主義」とはずばり、人の実存を哲学の中心におくこと。

わかりやすくいうと「各個人にとっての真理を重視」している。

そもそもキルケゴール以前の哲学者たちは、「誰も疑うことができない真理(普遍的なもの)」を見つけることに心血をそそいでいた。

この問題に挑戦したのがヘーゲルで、彼が真理に近づくための方法として考え出したのが「弁証法」だ。

キルケゴールはそんな哲学者たちの態度に疑問を持ち、そもそも「誰も疑うことができない真理なんて、役に立たないのではないか?」と疑問をなげかけた。

かわりに彼が重視したのが「各個人が持つ真理」。

誰もが納得できる真理を探すのではなく「個人がそれぞれ、自分の核として持っている真理」こそが重要だと考えた。

人間論

キルケゴールの人間論は、人間の存在と絶望について深い洞察を提供している。

彼の考えは、以下の3つのポイントにまとめることができる。

1. 人間の存在は、複数の対立関係の統合

キルケゴールは、人間の存在が「無限性ー有限性」、「時間的なものー永遠なもの」、「可能性ー必然性」といった2つのものの間の関係であると考える。

この統合が人間を定義し、私たちが日常的に直面する対立を形成している。

「無限性ー有限性」

無限性とは「想像的なもの」を指し、「想像的なもの」とは「空想」に当たる。

私たちはしばしば、「もし億万長者だったら...」というように、自分に与えられた状況から逃避するような仕方で別の自分を空想することがある。

有限性とは日々の現実の生活を取り囲む「具体的な物事」のこと。

日々の現実(世間)に埋没しながら自分自身を失って生きていくことを指している。

「時間的なものー永遠なもの」

人間は時間的なものと永遠なものを持つ生き物。

キルケゴールは人間は肉体 (時間的なもの)と 魂 (永遠なもの) でできていると考えている。

「可能性ー必然性」

自分の持って生まれた能力や外見、環境などによってすでに決められている「必然性」。

この必然性とは「あるべき自己」を見失っていることをさしている。

その必然性だけで人生がすべて決まる訳ではなく、 人間は、自由に人生を選んで何にでもなれるという「可能性」をも秘めている。

その可能性は「いまある自己」を欠くこと。

このように人間は、想像力を働かせて空想の中で生きることもできれば、具体的な現実に埋没して生きることもできる。

死後の存在についても、信じるかどうかによって異なる対立が存在。

この多様性が、人間の複雑な存在を示している。

2. 絶望とは正しい関係性の欠如。

キルケゴールの絶望の概念は、適切な関係性の欠如に関連している。

ここでいう「関係性」とは、原語であるデンマーク語の「forholde」から考えると、「態度を決すること」としたほうがわかりやすい。

彼はによると、絶望とは自己の在り方に対しての誤った態度をもった状態であり、人間が自分自身にたいして適切な態度を見つけることなく、自分勝手に態度を形成したときに生じる。

この絶望は、無限性と有限性、時間的なものと永遠なもの、可能性と必然性の間での不調和を指している。

キルケゴールは神が用意した「正しい自己のあり方」に忠実に従うと、絶望は克服されると説いている。

3. 他者(神)による認識と自己の発見

キルケゴールによれば、人間は他者によって認識された存在であり、とくに神によって認識されている。

彼は各人に適した「正しい自己のあり方」が存在し、それを見つけることが重要だと主張。

自己発見とは、適切な関係性を神の意志にしたがって構築し、正しい態度を決めることに関連している。

これにより人間は本物の自己として存在し、絶望から解放される。

キルケゴールの人間論は、個人の内面に焦点を当て、精神的な成長と自己発見についての深い考察を提供。

彼の哲学は、人間の複雑な存在と、絶望の克服にかんする洞察を提供し、自己をより深く理解する重要性を強調している。

キルケゴールのスタイル

『死に至る病』のキルケゴールの執筆スタイルは詩的でありながら哲学的ともいえる。

ゆえに「実存主義文学」に馴染みのない読者には難解な読み物となっていることは事実だ。

それにもかかわらず、彼のスタイルこそが「人間の存在の複雑さ」と「絶望の深淵」を読者に深く響かせるために効果を発揮している。

比喩、隠喩、および弁証法的な議論の使用は、絶望への探求を実りあるものにし、読者に豊かな読後感をもたらしている。

おわりに

本書はキルケゴールによる深い哲学的論考であり、とくに人間の存在における絶望とその重要性について探求している。

著者の哲学的視点は疑いなく深遠だが、すべての読者に共感するわけではないだろう。

彼の宗教的テーマへの依存と、神との個人的な関係を絶望の解決策として主張する点は、仏教徒が多い日本では共感されない可能性がある。

それでも『死に至る病』は、実存主義、心理学、または哲学に興味を持つすべての人にとって貴重な著作であり、人間の存在の複雑さとその中に見出す意味について独自で洞察的な視点を提供している。


コメントお待ちしています☕ また、mondにて匿名の質問・メッセージを募集しています。なんでも送ってね👍 https://mond.how/ja/hovinci_jp