hozumi

断片的な文章を載せています。(断片集にて) それと尻尾も。

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東京に出てきて十年近く経とうとしていた頃、田舎から

 東京に出てきて十年近く経とうとしていた頃、田舎から一通の電報が届いた。その時、丁度私は金属部品の研磨をしかける所だった。金の卵として田舎を出た後、私は金属加工の工場で働いていた。十年間、毎日ねじを作りながら、ねじのように働くのは大変素晴らしかった。私は、ねじになりたかった。円柱の金属部品に螺旋状の溝をつける作業をしながら、いつも私はねじと一緒に溶けて同化していくような心地いい気分になった。ねじに、なりたかった。私はねじになりたかった。何も考えず、何も苦しまず、何も辛くない。

    • クソヲヒル

       それはいわば奇跡ではなくて、 図々しさで一体何様のつもりだ ただの糞をひるだけじゃないのか。  その返事がまだ来ない土曜日の夜、 他の人間よりももっと臭いうんこだった 生まれながらの淑女だ

      • ユデタマゴ

        ゆでたまごに負けた ゆで卵で負けた ゆで卵にゆで卵で負けた 夢に見るゆで卵 それはもう夢たまご

        • 残された子供達は、彼等だけで生きていくほかなかった。

           残された子供達は、彼等だけで生きていくほかなかった。  母親が出て行ったのは、末弟の幸尾のせいなのだ、そうやって兄と姉は罵った。鈍臭く馬鹿で異端な小さい弟が捨てられただけで、我々が捨てられたのではない。責任はお前だけにある。そう口に出す事で、絶望へ堕ちるのを必死に止めた。悲劇に意味を与えなければ、受け止める事などできなかった。兄と姉の弟への仕打ち。それは、仕方のない事なのだろうか。悲劇を背負えば、何をしても許されるのか?それは誰も教えてくれなかった。幸尾は常に尻に痛みを感じ

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        記事

          封筒と麻袋に入った米を受け取ると、幸尾は胸の前でギュッと抱いた。それから幸尾は、

           封筒と麻袋に入った米を受け取ると、幸尾は胸の前でギュッと抱いた。それから幸尾は、その場でクルクル回った。お礼の言葉を知らなかったのだ。しかめ面だった女将はやっと少し笑って 「いいから、早くおかえり」  と、追い払うような手の仕草をつけて言った。  幸尾はゆっくりと歩き出す。米の存在、その重みを感じながら、ゆっくりと動き出す。陽が傾きかけていた。西の山へ隠れつつある太陽は、来た時とは違う日差しを田んぼへ注ぎ、田園風景を更に濃い黄金色に変えていった。チャパチャパと金の粉が舞い立

          封筒と麻袋に入った米を受け取ると、幸尾は胸の前でギュッと抱いた。それから幸尾は、

          あばれる

          また あばれてしまって しんやにじ のうみそあふれて あばれるくん かべがへこんだ あばれるさん サイヤじんのように 怒りをおさえて とめどなく あふれて あふれて あふれて あばれたちゃん

          あばれる

          プリンアラモード

          プリンアラモード 夢見たままが幸せだった プリンアラモード 焦燥感を感じて自己嫌悪に陥って ああどうしよう、 なんてやってたくらいが心地よかった プリンアラモード なぜなら知った 一握の砂 知りたくなかつたプリンアラモード夢見たままが幸せだった

          プリンアラモード

          犬が腰振るような月夜の日、幸尾は珍しく夜中に目が覚めた。窓から差し込む月の

           犬が腰振るような月夜の日、幸尾は珍しく夜中に目が覚めた。窓から差し込む月の光が明るかったからかもしれない。白く射すような光線が一直線に強く、納屋に向かって差し込んでいた。なぜかいつもより暖かく、しんと静かな夜だった。幸尾はむくりと体を起こすと、窓から外をのぞいた。すると、そこには一面の真っ白な世界が広がっていた。新雪に反射した月明かりがキラキラと夜を照らしていた。尋常ではない明るさだ。こんなに明るいというのに、父も母も、兄も姉もぐっすり眠っている。幸尾は、月明かりと雪景色に

          犬が腰振るような月夜の日、幸尾は珍しく夜中に目が覚めた。窓から差し込む月の

          雪を含んだ風が、山から冷たく吹き付ける。足元にはうっすらと絹のような雪が積もり始めていた。

           雪を含んだ風が、山から強く吹き付け、足元にはうっすらと絹のような雪が積もり始めていた。幸尾の足先は寒風にさらされ冷たさで傷んだ。野良犬が一匹、木の幹に向かって腰を振っていた。 「わかる、僕わかるで」  父親が何を言いたかったのか、幸尾はよくわからなかったが、元気良くそう答えた。 「よしゃ、幸ちゃんはええ子だなあ。さっすがおらの子だあ」  父はすっとんきょんな声を出して言った。ビュッと風が一段と強く吹きつけた。幸尾は父の首元に深く顔をうずめた。首にかけられた父の手ぬぐいが鼻に

          雪を含んだ風が、山から冷たく吹き付ける。足元にはうっすらと絹のような雪が積もり始めていた。

          「ごめん、幸男君。行かなきゃ」布団から抜け出して景子は言った。

          「ごめん、幸男君。行かなきゃ」  布団から抜け出して景子は言った。畳に落ちていた白いスリップを拾って身にまとうと、髪を後ろで束ねた。汗はすっかり引いている。景子は、ちゃぶ台の上にポーチを取り出し、ラジオに鏡を立てかけた。皮脂でテカった肌、汗で滲んだマスカラ、落ちた口紅。華奢な身体を蛍光灯の下に晒し、慣れた手つきで化粧を直し始めた。  ドンチン、ドンチン、ドドン、ドドン。  窓の外から、祭囃子のような音色が遠くに聞こえる。近頃、陽が落ちるとどこかから太鼓と尺八の音がかすかに届く

          「ごめん、幸男君。行かなきゃ」布団から抜け出して景子は言った。

          突然の泣き声が辺りを包んだ。あまりのけたたましい叫び声に相撲は中断され、

           突然の泣き声が辺りを包んだ。あまりのけたたましい叫び声に相撲は中断され、皆一様に声のする方を見た。小さな子供が泣いている。突っ立ったままの小さな足元は、片方が裸足であった。どうやら、片方の靴を川に落としてしまったらしい。流れる小さな赤い靴を、父親らしき人物が川の流れに沿って追いかける。なんとか追いついたはいいが、川端からは手が届かず、再び靴は流され、父親はまた走った。数十メートル先で、近くにいた見物人から長い枝を渡され、父親はなんとか靴を拾い上げた。顔をしわくちゃにして泣き

          突然の泣き声が辺りを包んだ。あまりのけたたましい叫び声に相撲は中断され、

          それから幸尾は毎日、河原へ出向いた。形のいい小石や木の枝を探したり、

           それから幸尾は毎日、河原へ出向いた。  形のいい小石や木の枝を探したり、石をできるだけ高く積んだり、岩についた苔やつららを眺めたり、そういった一人でできる限りの遊びをこなしながら、ちらちらと川面へ目を配った。川上から赤い花びらがひらひらと流れてくるかもしれないからだ。毎日ではないが、それは水流に乗ってやってくる。幸尾はそれを見逃すまいとした。  陽が傾きかけた頃、まずは一片、赤い花びらが流れてきた。先陣を切って勇ましく流れてくるそれを、幸尾は川べりからじっと見つめた。丸く大

          それから幸尾は毎日、河原へ出向いた。形のいい小石や木の枝を探したり、

          私は覚えている、君のそのまなざしを。鳥のようなまなざしを。 私はそれが苦手だった。君がそのまなこになり、鋭く射るのを。 私は君のそのまなざしを見つけるたびに、目を逸らした。 見なかったように。見なければ、ない、存在は、ない。現象も、ない。宇宙は空になる。太陽系からも、ないように。見なければ、空のように。 私が見なければ。君の、そのまなざしも、ないのだ。 まなざしの救済にて

          コーヒーブルース

          70円 70円 70円のブルース 70円 70円 70円のコーヒー 70円 70円 70円の生きる糧 70円 70円 70円の生きる価値 70円 70円 70円のために生きる 70円 70円 70円のうすいコーヒーがために生きる 70円 70円 70円 私も ……

          コーヒーブルース

          ふるあか

          それはしづかに舞いおちる ひらひらとはらはらとやさしく すこしづつ 土色の大地はやがてそまり 高貴なじゅうたんを織るように すこしづつしづかに しづかにすこしづつ まるくなった少年の まるくなった体躯のまわりを まるく囲んですこしづつ 埋めていく 千切られた紙片はぼやけて 消えてしまったよ からっぽになったはらっぱのまんなかで 泣きくずれた少年の ひざ小僧はあかい ひざ小僧はないて 苦痛に顔を歪めている ええ、小僧はそこにおりますよ さっきからずっと うまれたときからずっ

          ふるあか

          むかしのこと 3

          オトウシャン、 こんなとこで寝たらカゼひきますよ オトウシャン、 寝るならこちらですよ オトウシャン、ハイ、まくらですよ オトウシャン、 「ああ、しあわせだなあ」って ぺたんこな座布団で、父よ!

          むかしのこと 3