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イリノイ工科大学Institute of Designの卒業生が研究室を訪問

先日、イリノイ工科大学Insititute of Design(以下:ID)を今年7月に卒業したばかりの日本人卒業生3名を岩嵜研究室にお招きして、ゼミ生と一緒に勉強会を開催しました。(文責 M2 小川)

またシカゴ在住の卒業生3名ともZOOMでおつなぎすることで、心なしか現地の雰囲気も感じつつ、インタラクティブに場が進行しました。(当日シカゴは早朝4時台だったにも関わらず、早起きしてご参加いただいた方々には感謝です)

ID (Institute of Design)について

IDとは、米国イリノイ州シカゴにキャンパスを構えるデザイン大学院です。
取得可能な学位はMaster of DesignやMaster of Design Methodsとなります。MBAとのDual Degree Programを選べるという特徴もあります。

また今回新たに知ったこととして、最近はPublic Policy Administration(公共経営修士)とのDual Degree Programも選択できるようになっているとのことで、これは時代の変化というか、デザインの向かうべき未来を示唆しているように感じました。

社会を取り巻く問題はどんどん複雑化しており、もはや民間企業だけでは解決が難しく、よりコレクティブな取り組みが求められます。これまで以上に行政機関との連携が肝要になり、そこにデザインが介在する必要性とチャンスが多く残されているということなのだろうと、私なりに解釈しました。

これまでのIDの日本人卒業生としては、私が所属する研究室の担当教授である岩嵜博論先生をはじめ、BIOTOPEの佐宗邦威さん、Takramの佐々木康裕さんなどがいらっしゃいます。ビジネスとデザインが交差する領域の第一線でご活躍されている方々を多く輩出しています。

わずか10年前には日本人留学生はほとんどいなかったそうですが、現在はインドに次いで日本が2番目に多いとのこと。日本国内でデザインに対する関心が高まってきているという社会背景はありつつ、やはり上述した日本人卒業生の方々の幅広いご活躍が、後進に大きな期待と刺激を与えているものと推察します。

IDのプログラム

IDのプログラムは以下のようなサークル図で表現されており、中心から外側に向けてコアケイパビリティ→深耕領域→実践領域という形で整理されています。

プログラムの中に実践領域まで細かく明示されている点が興味深く、この辺りはIDとして修了後の社会実装を重視していることが窺えます。

ちなみにコアケイパビリティは、「曖昧さの受容(インサイト+人間中心主義)」「可能性の開拓(プロトタイピング+批評と評価)」「影響力のある変化の促進(システム思考+リーダーシップと媒介)」の3テーマ×2要素となっています。

IDのデザインプロセス

IDのデザインプロセスは4象限のダイアグラムで表現されます。縦軸に抽象⇄具体、横軸に思考⇄実践という形で、それぞれのプロセスがプロットされています。

 このプロセスの特徴は、プロセスが一直線ではなく、抽象と具体、思考と実践を行ったり来たりする点です。問題設定からすぐに解決策にジャンプせず、まず抽象的な方向に開いていくのです。また、ダイアグラムには表現されていませんが、基本スタンスとして現場を重視することと、作りながら考えることを意識しているとのことでした。

勉強会を通じての簡易的考察

さてこの勉強会を通じて学びはたくさんあったのですが、印象的なキーワードを2つだけ挙げると、「Prototype」と「Synthesis」です。これらのキーワードは上述したデザインプロセスの中にあった言葉です。

Prototypeについて

まず「Prototype」について、Prototype自体はサービスデザインの基本プロセスとして昔から存在しておりますが、最近になって改めて重視されてきているようです。伺ったお話によると、フレームワークやメソドロジーが一通り落ち着き、論理よりも実践のムードが高まってきているとのことです。
ちなみに今年に入ってIDEOがプロトタイピングスクールを開校しているので、確かにそういう流れが来ているんだろうという実感がありました。

余談ですが、これはPost Purposeの動きと構造が似てるなと思いました。
Purposeが世界的に注目されたばかりの頃は、「言語化」が話題の中心でした。しかしどれほど素晴らしいPurposeを掲げても、行動が伴わないことでステークホルダーの信頼を毀損してしまうという事実に、すぐに誰もが気づき始めました。
その端緒として、2019年のCannes Lionsでユニリーバ社のアラン・ジョープCEOは“Woke washing”への警鐘を鳴らしました。Woke washingとは、言葉を裏付ける行動が伴わない過剰な宣伝広告を揶揄するスラングです。こうした流れもあってPost Purposeの機運が高まり、Purposeは言行一致であることが重視されていきます。Purposeは言語化に加えて、より具体的なActionや本質的なConscienceが求められるようになりました。

さて、余談が長くなってしまいましたので、話を戻します。
Prototypeが今改めて求められているのは、リアリティへの欲求が背景にあるのだと思います。前述したPost Purposeの話も同様で、世の中の問題がどんどん複雑になり、生活者の心が窮屈になってきている現代は、美しい言葉や概念だけに満足している余裕はなく、荒削りでも手触りを感じられる実体を求めているのではないでしょうか。
またSNSの普及によって、言行一致の答え合わせが簡単にできてしまうことも背景の一つにありそうです。Prototypeの再興というエピソードからは、そうした背景を妄想させてくれました。

Synthesisについて

次に「Synthesis」についてですが、まずIDのデザインプロセスは、①Frame→②Research→③Analysis→④Synthesis→⑤Prototype→⑥Communicateという順序で進むので、Synthesis は4番目のプロセスで、Prototypeの手前に位置します。

つまりSynthesisはプロトタイピングするためのアウトプットを描く作業に当たります。ちなみにSynthesisを直訳すれば「統合」という意味です。「企画力」と表現しても大きく間違ってはないかもしれません。

Synthesisは、リサーチデータと自分の頭の中の引き出しにあるあらゆる情報を並べて、俯瞰して眺めた上で、必要なピースをピックアップして統合する作業だと理解しています。今回IDのデザインプロセスを拝見して、Synthesisこそが優れたアウトプットにつながる重要な結節点であると理解しました。

Synthesisの力を磨くためには、幅広くインプットを増やすことと、俯瞰力を身につけることが必要かなと思っておりますが、なんとなくそれだけでは足りず、もう少し複雑で繊細なメカニズムになっているような気がします。個人的にはそのメカニズムが気になってしまい、自分なりの答えを探してみたいと思いました。

まとめ

とりとめのない内容になってしまいましたが、以上をもって勉強会の感想とさせていただきます。 

お忙しい中お越しいただいた山田さん、磯谷さん、田中さん、シカゴからご参加いただいた瓜生さん、桑原さん、藤川さんありがとうございました。

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