短歌連作『剥き出しの傷だけに咲く青い花』30首 ―2020年上半期の自選も兼ねて

歩を止めた走者の頬の一滴が為した川へと流す灯籠

剥き出しの傷だけに咲く青い花だけに安らぐ手負いの小鳥

サーモグラフィーが君の温度を35.9℃(ごどくぶ)と告げてはじまる僕たちの夏

一本の口紅くらいではじけ飛ぶ一貫校のきれいな廊下

おんな泣く「男子うたって」全員の前できっちり五滴をおとす

人の為と書いては偽とした部室 おもい描けばセピアの写真

放課後の上履きワルツは全滅しダイヤ厳守の軍靴を鳴らす

またひとつ目の輝きが消えていくすべての音がほろびた電車

「若いから苦労を知らず無知である」村人Cのようなリピート

その歌手は知らないけれど「十代のカリスマ」と呼ぶテレビがきらい

どの駅のどのホームから飛び乗れど奇跡は起きぬ定時運行

ぎちぎちに火薬抱える人だらけ火花散るたび炎上してく

メルカリに彼氏を出品してみたら「300万!」と女子会で聞く

ただ単に力を乗せたことば舞い刺しあうような薔薇のママ会

十字架の重みがヒトを走らせる誰もが否認している虜囚

深夜でも誰も見てないところでも伝え続ける「谷」の表札

ごく一部だけを救ってその他を「お前が悪い」と見做した制度

困窮の腕がお里を一周し結果としての暴かれた墓

マンホール下の音知るドブネズミ第二の太陽だけを信じる

良くしたい ふとしたときに記憶からこぼれるようにきこえる声を

ゲバ棒も無数の合否も知っているクスノキの下、ぼくらは出逢う

パソコンを指す青年の隣席で水星人と午後のにらめっこ

プードルと人とチワワが列をなすただの小径を踏む帰還兵

くるくるとバトンに興ず男女あり この公園にいるのか我も

「一度目の『AKIRA』を家で観たときは色々あってさ休学してた」

年下のひとも知ってる歌探しデンモクかざす『春よ、来い』

歌詞通り 意味ならぬるい揺れ方に知った気がする日曜のバス

あなたとの接点のない平日に肩の曲線描いた虚空

頭蓋骨のなかの蔦(つた)這う尖塔のちいさなひめに水をあげたい

歴史から突如と消えた確かな灯 樹のごとねむる娘のなかに

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