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短歌 2020年下半期の自選60首「廃油の海を笑顔で泳げ」(後半)

耳障りな歌だ幼稚だ身勝手だまるであたしの叫びのようだ

テーブルに強く下ろした中ジョッキ彼はじぶんを見つけて欲しい

シナプスの先まで満ちた絶望が目を曇らせる 霧を吐かせる

孤児たちは幾度も噴かすエンジンを叫びのような夜の疾走



気がかりな夢から覚めてまだ蜘蛛がいるんじゃないかと壁を見る朝

豚汁は旨みと濁りの超融合 喰らい飲み干す超木曜日

自然食カフェのトイレの張り紙の筆跡を目でなぞる一分

出しゃばった名も名乗れない婆さんに重症と告げられる幻日

まなざしが束縛してる眼球のおくに鎖がぎらりと光る

くるしみという聖典に偽りの解釈なんて誰が欲しがる?

憎むのが得意でつくるのが苦手そんなあたしをどうすればいい

「明るくて元気な人を募集中」差別でないか後世に問いたい

あの野郎をぶち殺すはずの歌なのにどうして君の傷から薔薇が

ハトさんは「頭を重くしすぎたら飛べなくなる」といい、去りました。



駅前に床屋と美容院ならぶ選べるという不自由もある

まりにゃんと呼ばれるひとを呼びにくい文学部棟、浮かびかき消す

早口でいそがしそうだ受話口に吹き込んでくる戦場の風

前置きの「キレイなタオルですので」に光るやさしさちいさく拾う

清新なひかりが満ちる九つの椅子と鏡とハサミの魔法

少しだけ目を閉じますが目覚めたら輪郭を描くように感謝を



(賛成じゃなく)反対の人は手を挙げろとクラス委員は言った

パーティがマイノリティを射るための正義の呪文「ミンナデキメタ」

文化祭終わりのホームルームにて委員が泣いた 幕は降りない

傘立てにそれぞれの傘立っている それぞれの雲から雨はふる



説明をする気はないよ八百屋まで銀行強盗しに行く奴に

国王も夜が来たなら独房に戻る 囁く影と向き合う

俯瞰する眼などは持たぬ一角獣は突進のみを規範と信ず



蝋燭は等しく壕を照らすのに影を見つめて描く肖像

脊椎のことばは無効ですうぶな頭部をもって当窓口へ


東京駅の出口をさがすまだ聞いていない言葉がトビラをひらく



あとがき

2020年は227首を投稿しました。

僕は2019年から短歌を始めて、その年は150首ほど詠んだので、合計するとこれまでに377首を詠んだことになります。


あと500首くらい詠めば、すこし元気になれるかもしれない。そんな気もしている。

今の自分にとって、短歌を詠むとは「切る」に近いと思うことがある。

出来事を切り刻んで消化する、自らを縛る鎖を切る、時間や空間などの領域を区切る……など。

ステイホームであってもなくても、自室から一歩も動かずに世界を塗り替えて、自由の身になるつもりでいる。

囚われから解放された世界は鮮やかなのだろう。現在の位置からでもそれが垣間見える瞬間がある。


また、自分にとっての短歌は、消え去っていったものや消えかかっているものの肯定でもある。

君やキズキやレイコさんがねじまがっているとはどうしても思えないんだ。ねじまがっていると僕が感じる連中はみんな元気に外を歩きまわってるよ

(村上春樹『ノルウェイの森(上)』講談社文庫 p.289より)



▼これまでの短歌の歩み


▼エッセイたち。自己紹介的でもある


▼短編小説もけっこう書いています


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