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短歌 2021年の自選47首 <1月-6月編>

二十四年ずっと鳴ってたサイレンが鎮まりそこでサイレンと知る


ぐつぐつと煮込むシチューに曹長の生き死にの夜が渦巻いている


吐き出すのではなくあふれ出るようにまずは自分をきらきら満たす


カルピスを子どものような眩しさで飲み干せるまでの長い年月


ひとちがい 酷く変形した罪を聞かされ何故か怒鳴られている


どう見ても変な講堂 狂人のポケットにだけ残る旋律


<想像をさせるたたかい>三年後あなたは燃える 除霊は五万


月、そして一歩目である三十で死ぬと定めた鉄の部屋から


七年も前の出来事ひきずっている我をひきずっている道


白昼の悪夢に満ちた頭蓋骨がくるおしいほど北へと急かす


知らぬ間に愚者(フール)を演じさせられてしまう磁界と視線の小部屋


あの頃は強酸性の土でしたみんな痩せててぎりぎりでした


アスカ派かレイ派だろうかアスカ派か マリ派の彼は油断ならない


山頂の白い神殿から鐘はなにかを責めるように響いて


布きれで顔を覆った人たちが「罪人よ、悔い改めなさい」と


「身に覚えがない」と抗弁するほどに罰当たりだとざわついている


答えずにいれば「認めたわけですね」罰当たりだとざわついている


聖者ではないと盗賊なのですか 村人たちが谷に溶けゆく


横たわる老婆は狂者のふりをする道行く人を赤眼で睨む


わたくしは大天使です逆らえば餓鬼であるとの神話大系


餓鬼であると定めた敵を餓鬼であると定めるための尋問である


そっと置くくらいの貝のやさしさで良かったんだと気づいては春


平静を欠いたブリキの槍兵は「すべてお前のせいだ」と言った


考える葦 その前に一匹の獣だ 肉と愛情を喰う


ほんとうは些細なことのはずなのに気にされすぎて気にしすぎてる


自殺したひともいるけどそんなこと興味なさげに笑う街並み


飽きているゲームをひとり続けると未来が曇るように感じた


ホリエモンのツイートとかにマジギレのリプライ付けるようなキレ方


経歴や用語をまくし立てている君の心を僕は見ている


絶対にそうとしか思えない病 愛されなかった獣の月夜


測れない白黒の渦へと投げた自我の破片が膨らみわらう


どこまでが我でどこから彼なのか 月下に溶ける窓なき小部屋


怒鳴りつつせがむお前はヒナじゃないエサはやらない母親じゃない


ひどく疲れてたゆうべの事ばかり拾って練った泥人形ね


「通り魔が刺した動機は善意だ」と「君が悪い」と別の通り魔


見下した伝え方しか出来ない病 愛されなかった獣のなみだ


まぼろしのあなたにひどく似た人を怒鳴るあなたを見てはいる僕


喜ばせられないけどさ認めてよ <知ったかぶりと否定の砦>


すべて詩に変えたあとにはうららかな空洞があり海からの風


はつなつの長い話のまえに飲むレモンスカッシュに浮かんだ緑


さみしさに苦しみながら生きました 偽らなくていいアンダンテ


「物理的な孤立とはちがうんだね?」と確認をする知性の温度


少数派のひとは苦しむ国と聞く 世界屈指の同調圧力


八割の人は外向型と聞く 辺境に棲む短歌のぼくら


ぬくもりのある木の皿のスコーンがほろほろすぎて泣けてきそうだ


テーブルの上の交流ノートにはしずかな雨とやさしいせかい


こんな世に小さな灯りたやさずに来店を待つ静かなる意志



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