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富裕税・資産税は現代自由資本主義社会で可能なのか

日本のみならず世界的に貧富の格差の拡大が問題になってきている中、富裕税を真剣に議論し始める時代になりつつあります。

世の中のほぼ全ての税金はお金の移動が起きたときに発生します。所得税、消費税など代表的ですが、不動産取得税、自動車取得税、たばこ税、酒税などもそうですね。例外は固定資産税のように資産を所有しているだけで毎年課税されるものですが、富裕税はこの固定資産税を金融資産に対象を広げたものです。

この富裕税、資産税に関しては最も進んだ自由資本主義国であるアメリカでも一部で必要性が問われ始めました。

コラム:米で広がる富裕税支持、大統領選後の導入に現実味 - ロイター
https://jp.reuters.com/article/us-tax-breakingviews-idJPKBN1WP0QV

民主党が2020年の大統領選挙で勝てば(それ以前に民主党の指名選挙を富裕税支持者が勝つことが必要ですが)、議論は進み始めるでしょう。伝説的な投資家である、ウォーレン・バフェット氏のように以前から超富裕層に特別な課税をするべきと唱える人もいます。

ウォーレン・バフェット、一部富裕層のみが優遇される課税システムを非難
https://rollingstonejapan.com/articles/detail/30115

しかし、当のバフェットも現状の富裕層優遇税制の恩恵も受けていますので、あまり真に受けることが出来ないですが、それでも何も言わずにただ儲け続けているだけの超富裕層よりはマシなのかも知れません。

バフェット氏の「抜け穴」 節税と蓄財を可能に
https://jp.wsj.com/articles/SB12553795185919473670004580577222829813604
ウォーレン・バフェット氏は自分に対する税率が、秘書に対する税率よりも低いと好んで口にしている。
(中略)
バフェット氏も富の分配を主張する大衆に大受けなのはめでたいことである。彼らが分配しようとしている富がバフェット氏の富ではないということは極めて不思議である。

一方、太平洋を挟んだ自由資本主義国である日本でも、ある意味で伝説的な投資家である村上世彰氏も資産税を提唱しています。

[議論]村上世彰氏「格差解消へ家計・企業に資産課税を」:日経ビジネス電子版
https://business.nikkei.com/atcl/forum/19/00024/093000035/

ここに書かれているように、私自身も貧富の格差の拡大は社会の不安定さを招くと思っています。相対的に貧しい人が増えれば富裕層に対する反感が生まれ、国家や社会などの共同体に対する負担を富裕層に任せようとする感情が出てきます。すぐに暴動が頻発する社会になるとは思いませんが、ワーキングプアの存在は生活保護までの前段階になりかねません。大規模な不況がやってくれば失業保険、生活保護の支払が増え、あっという間に国家や自治体の財政に大ダメージを与えます。

もちろん、不景気のダメージを一番受けるのは貧困層です。しかし大多数の富裕層にとって、その資産や収入をもたらしているのは大多数の非富裕層です。その非富裕層の経済状態が悪くなり、富裕層への風当たりも強くなっていくのは富裕層にとってもマイナスなはずです。

社会の不安定化を防ぐために富裕層に対する特別な課税を行い、その分、別のところで免税や福祉にお金を回すのであれば、富裕税にも相応の意義があるはずです。

実際に金融資産に対して課税するのは大変だと思います。収入に対する課税は支払った人間が申告することでたどることが出来ますが、昔から持っている銀行口座をもれなく調査しなければなりません。銀行などの金融機関を協力させるしかありませんが、理論上はマイナンバーの登録によって全ての口座を個人に紐付け(名寄せ)できるはずです。

もちろん、海外に資産を移転させたり、銀行から引き出してタンス預金(さすがに耐火金庫にしまうと思いますが)されたらお手上げですが、それはそれで富裕層にとっても相応のリスクがあります。海外に持っていくと、自由に使いたいときに国内でその資産を使用できなくなりますし、タンス預金は盗難・強盗・紛失・火災などのリスクを抱えます。

効率よく資産税を課税するには現金、特に高額紙幣を廃止しないと難しいでしょう。

ケネス・S・ロゴフに「現金の呪い」という本があります。

現金の呪いーー紙幣をいつ廃止するか?
https://www.nikkeibp.co.jp/atclpubmkt/book/17/P55070/

高額紙幣の廃止により、「レスキャッシュ」社会をもたらし、マイナス金利による効果的な金融政策が可能になり、ブラックマネーも減る、という筋立ての本ですが、資産税を実行するときにも有効な手立てではないかと思います。

ただ、一番の障害は、富裕税を課される富裕層の支持をどうやって取り付けるかです。議論され始めたら猛烈な反対が起きるでしょうし、官僚や政治家へのロビー活動や、課税に対しての裁判での抵抗も起きるでしょう。社会を安定させるための必要なコストということを富裕層に理解させることが出来るかが鍵となりますが、日本で実施するには外国での前例があった方が国民性を考えるとやりやすいでしょうから、アメリカなり他の国で先行して実施してもらって成功してほしいところです

今後の景気次第によっては、あまりそんな悠長なことを言っていられる状況では無くなるかも知れませんが。

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