見出し画像

純文学はこんなにも面白い

芥川賞は日本の文学賞で一番有名な賞だと思いますが、その実態はあまり世に浸透しておらず、また注目度も他の文学賞に対して低いように感じます。

例えば、エンタメ性の高い直木賞と純文学を取り扱う芥川賞では、作品にもよりますが、大抵売り上げは直木賞の方が高いです。
更に高校生直木賞というものもあり、全国の学生が本を語り合える機会を作っています。

本屋大賞は書店員によって投票される賞で、大賞に関わらずノミネート作も人気が高く、映画化やアニメ化、ドラマ化など注目される場面も多いです。

どうしても純文学の賞は「難しいから」と敬遠されがちで、読まれることも少ないと思います。
ですが、大声で伝えたい。純文学は難しいだけじゃない!ということを。純文学にも色んな作品があります。誰にでも面白いと思う作品は一つはあるはずです。
また純文学の作品も注目するポイントを変えることで、面白く感じることができるはず。元々純文学を読むことができなかった私が、そのコツを伝授できたらと思います。

1.純文学ってこんな作品

純文学と先程から何度も登場させていますが、そのジャンルにこれと言った定義はありません。独断と偏見で、純文学はいくつかのジャンルに分けることができると感じたので、ぜひ参考にしてみてください。

・「人間」を追う
これは感情の機微、人間関係や主人公の成長などをテーマとした作品。このような作品は描写が上手く、感情移入がしやすく話の流れも分かりやすいため好まれることが多い。
例えば、又吉直樹の「劇場」や綿矢りさの「蹴りたい背中」など。

・時代風刺系
現代に関わらず、その時々の社会問題や時代の流れ、世界のあり方を一つのテーマとして風刺する作品。トラブルが必ずある作品とも言えるので、事件性があり、読みやすいと思います。ただ、展開として分かりやすくても、社会問題の方が難しいものは読みにくいかもしれません。
例えば、宇佐見りんの「推し、燃ゆ」や高瀬隼子の「おいしいごはんが食べられますように」など。

・奇怪、不思議、幻想的
不思議な要素があったり、登場人物が奇妙だったり、世間でいう「普通」とは何かが違う作品。そもそものテーマが"普通とは何か"を考えさせる作品が多い。共感はしづらいが、あり得ないと思わせる話に惹かれる人も多い。ミステリやどんでん返しが好きな人には意外と合うかもしれない。
ただ、幻想的な作品は描写が細かく丁寧な方が多いので読むのに苦労するかもしれない。
例えば、今村夏子の「むらさきのスカートの女」や石沢麻依の「貝に続く場所にて」など。

・哲学的
ここに区分されるものが世間でいう「難しさ」のある作品なのだと思う。哲学的で、比喩が多く、起承転結が無いため、意味を汲み取るのが難しい作品が多い。しかし裏に隠されているメッセージに気づいたり、自分の中で納得できたときに一番感動する。泣ける話でなくても感動する瞬間があったりする。
例えば、島口大樹の「オン・ザ・プラネット」や沼田真祐の「影裏」など。

大体はこんなふうに分けることができるかなと思います。注目するポイントによって、同じ作品でも区分するところも変わるかもしれませんが、そんなところも純文学の面白いところ。

2.ここに注目してみて!

読むポイントを変えれば純文学にハマる人がいるはずです。私もずっとライト文芸やエンタメ小説、ミステリなどを読んできたので少しは説得力があるはずです。

・人称に注目!
一人称▷僕、私
僕や私の語る小説は地の文に嘘がつけません。感情などの表現、見ているものなど、素直に書く必要があるため分かりやすいと思います。
作品によってはセリフは僕なのに、地の文では俺になっている、など面白い仕掛けがかけられていることもあります。

二人称▷あなた
あなたで語る小説は一番難しいですが、誰があなた、と呼んでいるのだろう?語り手の存在は誰?と考える余地が増えるので想像力のある人におすすめです。芥川賞には二人称の作品もいくつかあります。

三人称▷彼、彼女、名前
第三者の目線で描かれ、主人公の視点以外からも物語を俯瞰的に見えるので主人公に加担しづらく、作品全体を楽しめるはず。先に書いた、人を追う作品には向いていない。逆に奇怪・不思議な作品はこれが使われていることが多い気がします。

・最後まで諦めないで!
純文学はエンタメ小説のようにサクサク話が進まないものの方が多いです。でも自分には合わないな、と思う作品があったとしても途中で読むことを辞めないほうが良いです。本というのは読んでいればいつか終わります。途中で諦めるのは勿体無いです。

なぜそう思うのか。
私の実体験なのですが、最初全然面白く無いと思った作品がありました。最後まで読んでもあまり掴めなかったのですが、数日経つとあれはこういう意味だったのかな?と思い起こしました。

つまり、純文学というのは作品で終わらないのです。作品を読み終えて、そこから自分が何を考えて、どんな風に作品からメッセージを受け取るかによって、駄作だと思っていたものが自分の人生を変える作品になっているかもしれません。
諦めずに読んで、必ず考えること。それが純文学の楽しみ方だと思います。

・好きな表現、セリフを探す
読みながら好きだと感じたり、自分にしっくりくるフレーズを探すと意味が分からないとしても楽しく読むことができます。
この文章の表現素敵だな、とか風景描写で美しい!と感じる一文があるはずです。そんな文章に出会えると純文学は面白いんじゃないかなと思います。

・題名を考える
純文学の題名は、どうしてそれにしたの?と思うような、作品との関連があまり無いものもある。でも作者はそれにするべくしてしているはず。題名はその作品の顔のようなもの。
題名だけで内容を思い出してどうにも表せない気持ちになったりもするので、題名のパワーって偉大です。題名について考えることは作品を考えることにもつながって面白いです。これは純文学に限った話では無いですね。

3.純文学にハマりたい人へ

純文学というジャンルを開拓したい人へ、手当たり次第に読んでも逆に毛嫌いしてしまう可能性があります。おすすめの読み方があるのでぜひ参考にしてみてください。

・純文学もエンタメも書ける作家の作品を読む
長編のエンタメも書ける人の作品は流れがあって、純文学も読みやすいかもしれないです。また、芥川賞と直木賞、どちらにもノミネートされたことのある作家の作品は初心者でも読みやすい可能性があります。
例えば、島本理生や川上未映子は読みやすいのではと思います。

・好きな文体の作家を読破する
色々な人の作品を読むよりは、好きだと思った文体や話を書く人の作品を読破していく方が純文学を楽しめると思います。

4.初心者でも読めるはず!おすすめ5選

・母影 尾崎世界観
尾崎世界観はバンド・クリープハイプのボーカルでもあります。彼の音楽の表現が好きな方はもちろん、主人公が小学生ということもあり漢字が多用されていないし、一人称なので目線が定まっていて分かりやすい!

・星の子 今村夏子
謎の宗教に足を踏み入れていく家族の話。少し前まで問題になっていた、宗教2世小説でもあるので身近で親近感が湧く作品では。映画化もされているので掴みとして見るのも、話を読んで後味が悪ければすっきりさせるために見るのも良いかもしれません。芦田愛菜さん主演です。

・かけら 青山七恵
話に起承転結はありませんが穏やかな気持ちになれるはず。幅広い世代に読んでほしい、綺麗で純粋な作品です。下は学生、上は保護者世代まで。年代によって注目する部分が変わる魔法のような作品でもあるんじゃないかな?そんな可能性のある作品です。短編でさくっと読めるのもおすすめ!

・蛇にピアス 金原ひとみ
少し危ない世界を覗き見したい人はこれかな。上で言うと、「人」を追う作品でもある。どうでもよくなって自分を捨てたいと思ったことがある人には刺さるんじゃないかな。刺激的で生々しい表現もあるから小学生とかにはおすすめしない。

・コンビニ人間 村田沙耶香
こういう、初心者におすすめ!という記事に必ず出てくる作品。でもそれだけ読みやすいし、考えさせられる作品でもあります。自分の考え方や倫理観を潰される人もいるかも。軽いショックな作品。働くことや将来のことを考えるときにおすすめしたい。何度だって、読むたびに味が出る作品。

5.まとめ

長くなりましたが、純文学の面白さ伝われ!という気持ちで書きました。これを読んで一人でも読書人口、あわよくば純文学にハマる人がいると嬉しいです。

補足しておくと、私は純文学以外の作品も好きです。読書全般が小さな頃から好きで、児童書、ライトノベル、エンタメ小説、ミステリ、本屋大賞や直木賞作品などを経て、純文学を読んだ時に大きな衝撃を受けました。こんなに面白い世界がまだあったんだな、と感じてそこから純文学が無いと駄目な体になってしまいました。笑

純文学が好きな今でも、他のジャンルの作品ももちろん読むので、本好きの方がこれを読んでいたら好きな本をコメントなどで紹介してほしいです。

では、ここまで読んでくれた方がいたらありがとうございました!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?