見出し画像

中田敦彦・松本人志騒動に思う父殺し「エディプスコンプレックス」

先日、「バウンダリー・オーバー」について書いた記事をくろこさんのnoteで紹介していただきました。

くろこさんは、自他の境界線を『エヴァンゲリオン』に出てくる用語「A.T.フィールド」を用いて、面白く説明してくださっていますので、お読みいただけると嬉しいです。


『エヴァンゲリオン』は心理学的な視点で見ると、様々な示唆が含まれているので、心理分析の格好の題材といえそうです。

精神科医の樺沢紫苑さんも、自著『父滅の刃』の中で、

『エヴァンゲリオン』の家族喪失について触れておられます。

『エヴァンゲリオン』では、毒父親である碇ゲンドウ相手に、息子の碇シンジが葛藤しながら乗り越えようとする様が描かれています。

エディプスコンプレックスとは?

母親に愛情を抱いた子供が、強固な存在である父親を妬み、母親を手に入れるために父を乗り越える現象を、精神科医のジークモント・フロイトはエディプスコンプレックスと名付けました。

エディプスコンプレックスの由来は、ギリシア神話。

オイディプス(エディプス)は実の父親ライオスをそうとは知らずに亡き者にしてしまい、母親イオカステを娶り結ばれるという、なかなかグロテスクな物語です。


父親視した先生を相手にエディプスコンプレックスが発生

エディプスコンプレックスは母親を奪い合う父子という構図になりますが、ここで定義されている父という存在を抽象化し概念化すれば、権威、師匠という言葉に置き換えることができます。

僕自身、早くに父を亡くしていることから、思春期、青年期にリアルな父と対峙して、乗り越える経験をしておりません。

先日、投稿したこちらの記事の中で、

1人目の師に該当する人の言葉の呪いで苦しんだと記しました。

あとから内省して理解したのですが、父と対峙することなく大人になった僕は、この先生のもとで学んでいた頃、遅い反抗期を迎えており、この先生に対するネガティブな感情が出てきてしかたなかったのです。

何度か飲み会の場で噛みついたり、「それは違うと思います!」「その考えは傲慢ですよ」みたいにやたらと反論した記憶があるのですが、心理的にエディプスコンプレックス的な父殺しを試みていた節がありました。

この先生は、社会的な権威であり、僕にとって父性の象徴だったのは間違いありません。

そしてこの頃の僕は、まだ社会を渡っていく力を持っていない卑屈な人間でした。

ちなみに今の僕の礎となっている言葉をくださった2人目の先生は、厳しさと優しさ、父性と母性の双方を合わせ持つ稀有な方でした。

1人目の先生のことを長期間疎ましく思っていたものの、いつからか感謝できるようになりました。

大人になることを嫌がっていた僕も、少しだけ大人になれたのかも?

長い時間をかけて、こじらせていた感情が昇華できたのだと思います。

noteでフォローさせていただいている方の記事を拝読していると、親との関係で苦しんでいる方が多い印象を受けます。

人が最も難しく感じるのは、近距離で接し続ける必要がある家族なのでしょう。

僕は若い頃、社会というものを異常に怖がっており、社会的自立をするタイミングを先延ばしにしておりました。

その期間、母親と二人暮らしを続け母子癒着に苦しんだ経験があるのですが、もし父親が早くに他界していなかったら「つべこべ言わず実家を出て、自活できるようになれ!」と叩き出していたでしょう。

エディプス中田とライオス松本の攻防

さて最近話題になっているオリエンタルラジオの中田さんとダウンタウン松本さんの騒動。

あの報道の第一印象が「あっちゃんが父殺しをしようとしている!」というものでした。

ダウンタウンはお笑いの世界に圧倒的な影響を与えました。ダウンタウン以降という言葉があるほど、あらゆる笑いの形を見つけ出し発表し続けていった功績は、誰もが知るところでしょう。

『寸止め海峡(仮)』『頭頭(とうず)』『VISUALBUM(ビジュアルバム)シリーズ』『ひとりごっつ』『働くおっさん人形』『働くおっさん劇場』『モーニングビッグ対談 』など、これまでなかった前衛的な笑いを探求し続けた松本さん。

ダウンタウンはお笑い界のビートルズ。全員ではないものの、大半のお笑い芸人は、自覚の有無を問わず未だダウンタウンの影響下にあるのです。

1970年代、1980年代生まれの人は、ダウンタウン直撃世代。

僕が高校生の頃、同級生と『遺書』を回し読みしていた記憶があります。

「ハイセンスなダウンタウンの笑いが理解できるやつは高尚で、わからないやつは鈍い」みたいなダウンタウン原理主義がどんどん広まっていた時代でした。

まだお笑いの世界には「カリスマ松本人志の批判は、絶対的タブー」という不文律であるはずです(特に吉本興業が顕著)。

そこへ嚙みついた中田さん。「松本人志さんはお笑いコンテストの審査員をやりすぎ」と提言。

そして「ガキが偉そうなことを抜かすな!」と怒る中田さんよりも上の世代の先輩芸人たち。
上沼恵美子さんは「いっぺんやってみ、審査員!」と大激怒。

実に興味深い構図だなと感じました。

そして「提言事件後」にオリラジのおふたりが配信した動画の中で、

藤森慎吾さんは「(あっちゃんは)松本さんのことを知りすぎてるし、詳しすぎる。リスペクトしすぎてるんだよ」と指摘されました。

それに対して「それはもう愛ゆえに提言してるわけですから。クレイジーラブ」と返答された中田さん。

やっぱりこの人はウィットに富んでいますね。この「クレイジーラブ」という表現がすごく面白い!

エディプスコンプレックスでは愛情の裏返しによって、とめどない陰性感情、ネガティブ感情が生まれます。

それはもう当人には、どうにもできず抑えがたいもの。

やはり、この騒ぎはお笑いの世界で起きたエディプスコンプレックス騒動だと思っています。

もちろん松本さんが父ライオスで、中田さんが息子エディプス

エディプスコンプレックスを詳細に定義すると、「幼い男児が同性である父親を強烈に敵視し、異性である母親の愛を得ようするもの」となります。

中田さんの騒動での、「異性である母親の愛」が何に置き換わるかを想像すると、松本さんのこと比類なき天才と認め支持し続けている世間の人達の声なのかも?

父性的な作家・藤本義一を倒した松本人志

中田さんの噛みつきに対して、松本さんがむきにならず大人の対応をされているのは、かつて松本さんも若かった頃に、色々な人に噛みつきまくった経験があったからでしょう。

上方芸能界の父性的なポジションであった藤本義一さん相手に、かつて鮮やかな父殺しを果たした松本さんですから、「わかるよ。あっちゃん、その気持ち」と頷いているのかもしれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?